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2022年9月 1日

小岩広宣社労士の「人材サービスと労務の視点」138・コロナ陽性者への会社の対応

Q 新型コロナウイルス感染症の第7波が引き続き猛威を振るっており、各地で過去最大規模の感染者数が報告されています。従業員に陽性者が出た場合の会社の実務対応は、どのように考えるべきでしょうか。

koiwa1.png 強い感染力を持つ新型コロナ第7波の猛威は、地域や業種業態を問わず人材管理や経営全般にも深刻な影響を与えつつあります。会社としての実務対応を行うにあたっての留意点をピックアップします。

①陽性時の報告
 従業員が陽性となった場合には、以下のルールによって療養、自宅待機などが発生することになりますが、このような仕組みについて最低限の理解を促すとともに、会社への報告の方法などについてもあらかじめ共有しておくことが必要です。とくに無症状者については陽性の事実を報告しないケースも考えられますが、感染症法の就業制限が課せられる可能性があります。一般的には直属の上司が報告を受けることになりますが、もっぱら部下からの報告に期待するのではなく常日頃からの体調管理への目配せも以前に増して必要だといえるでしょう。

新型コロナウイルス感染症 陽性だった場合の療養解除について 表示

②体調不良時の対応
 体調を崩した従業員からコロナの疑いがあるとの相談を受けたり、明らかに体調不良をきたしている従業員が存在するケースもあります。このような場合は就業時間中であってもただちにPCR検査を受けることをすすめ、場合によっては会社が便宜がよい機関などを紹介すべきでしょう。PCR検査については、就業規則などの明示の根拠に基づき会社側の負担において実施する場合は、判例法上も会社が従業員に受診を求めることができると考えられています。なお、薬局や通信販売で入手できる抗原検査キットなどでは必ずしも正確な検査結果が出るとは限らない点にも留意しておきたいものです。

③療養期間中の賃金
 陽性者の療養解除までの期間は、症状がある場合は原則10日+αとされています。この期間は原則として会社は賃金支払いの義務を負いませんが、ほとんどの場合は健康保険の傷病手当金の対象となると考えられます。陽性反応者の傷病手当金については、当面の間、医師の労務不能証明がなくても申請できます。従事している業務の実態や感染経路などによっては、業務災害として労災認定が得られることもあるため、この場合は社内で必要な調査や労基署への照会などの上で請求手続きを行うことになります。また、コロナ療養期間について会社独自の賃金補填や手当支給などがある場合は、制度についてあらかじめ周知しておくことになります。

④療養期間中の業務
 予期なく10日あまりの期間に渡って従業員が療養することの実務への影響は大きいですし、なおかつ重症化すればこの期間はさらに伸びることになり、また同僚社員などに複数の濃厚接触者が出た場合の影響などははかりしれません。とはいえこれだけ高い感染力を持って猛威を振るっている以上、会社としては相当の注意をして職務にあたり日常生活を送っていたとしても、いつ誰が感染してもおかしくないという認識を共有しておくことが大切でしょう。具体的には、担当業務をシェアするためのオンライン化や業務進捗のタイムリーな把握、応援人材の確保のための機動的な人材活用などが求められるでしょう。

⑤業務復帰時の対応
 療養期間を終えて職場復帰する際は、会社側がもっとも配慮が求められるタイミングになります。爆発的な感染者数の増加から保健所の対応にも限界が出つつあることから、療養解除のタイミングについては自己責任で判断することが求められます。とはいえすべて従業員の自主的な管理に委ねると適切な対応が取れないケースもあることから、実際には会社から本人に報告を求めつつ対応を取っていくのが理想だといえます。なかには後遺症に悩まされる人もいますが、そうでなくても復帰後はメンタル的にも十分に本来の業務でのパフォーマンスを発揮できないこともあります。とくに若年社員や転職して期間が短いような場合は、上司や同僚から療養期間中の業務を引き継ぎつつ現場感を取り戻す「リハビリ期間」が数日程度は必要になるかもしれません。

(小岩 広宣/社会保険労務士法人ナデック 代表社員)

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