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2022年12月 1日

小岩広宣社労士の「人材サービスと労務の視点」151・虚偽の労働条件の求人広告

Q 虚偽の労働条件の求人広告が問題となるケースがあるといいますが、具体的にはどのような場合でしょうか。

koiwa1.png 職業安定法では、以下の規定によって求人段階における労働条件等の明示が義務づけられており、求人の申し込みにあたって労働者になろうとする者などに対して、労働者が従事すべき業務の内容及び賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければなりません。

 ハローワークに求人申込みをする場合や職業紹介事業者に依頼する場合のほか、求人広告やインターネット上の求人サービスなどを利用する場合なども同様ですが、派遣会社が派遣労働者を募集する場合については、派遣先との具体的な合意がなく、労働者の具体的な労働条件が明示できない場合には、明示義務違反が問われることになるため注意が必要です。

(労働条件等の明示)
第五条の三 公共職業安定所、特定地方公共団体及び職業紹介事業者、労働者の募集を行う者及び募集受託者並びに労働者供給事業者は、それぞれ、職業紹介、労働者の募集又は労働者供給に当たり、求職者、募集に応じて労働者になろうとする者又は供給される労働者に対し、その者が従事すべき業務の内容及び賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければならない。
② 求人者は求人の申込みに当たり公共職業安定所、特定地方公共団体又は職業紹介事業者に対し、労働者供給を受けようとする者はあらかじめ労働者供給事業者に対し、それぞれ、求職者又は供給される労働者が従事すべき業務の内容及び賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければならない。
③ 求人者、労働者の募集を行う者及び労働者供給を受けようとする者(供給される労働者を雇用する場合に限る。)は、それぞれ、求人の申込みをした公共職業安定所、特定地方公共団体若しくは職業紹介事業者の紹介による求職者、募集に応じて労働者になろうとする者又は供給される労働者と労働契約を締結しようとする場合であつて、これらの者に対して第一項の規定により明示された従事すべき業務の内容及び賃金、労働時間その他の労働条件(以下この項において「従事すべき業務の内容等」という。)を変更する場合その他厚生労働省令で定める場合は、当該契約の相手方となろうとする者に対し、当該変更する従事すべき業務の内容等その他厚生労働省令で定める事項を明示しなければならない。


 職安法5条の3の2項、3項に違反した場合には、厚生労働大臣による改善命令や勧告、企業名公表が行われることになりますが(48条の3)、具体的に労働者派遣契約を締結していないにもかかわらず、求人誌などにおいて虚偽の労働条件の求人広告を掲載したなどの事案で、改善命令の行政処分が実施されているケースもあります。

 基本的なコンプライアンス事項として、派遣労働者の募集にあたっては、派遣就業の内容が確定されてはじめて具体的な労働条件が明示できる段階になることから、そもそも求人する労働条件が存在しなかったり、その内容があいまいな場合などは虚偽の労働条件の求人として指導対象になり得ることを十分に認識しておかなければなりません。

(求人等に関する情報の的確な表示)
第五条の四 公共職業安定所、特定地方公共団体及び職業紹介事業者、労働者の募集を行う者及び募集受託者、募集情報等提供事業を行う者並びに労働者供給事業者は、この法律に基づく業務に関して新聞、雑誌その他の刊行物に掲載する広告、文書の掲出又は頒布その他厚生労働省令で定める方法(以下この条において「広告等」という。)により求人若しくは労働者の募集に関する情報又は求職者若しくは労働者になろうとする者に関する情報その他 厚生労働省令で定める情報(第三項において「求人等に関する情報」という。)を提供するときは、当該情報について虚偽の表示又は誤解を生じさせる表示をしてはならない。(以下略)


 令和4年10月の法改正により、求人等に関する情報の的確な表示義務(5条の4)が規定されていることもあわせて押さえておくことが大切です。派遣労働者の労働条件を決定するのはあくまで派遣元であり、派遣先の労働条件に準拠する趣旨の表示を行う場合は、ケースによっては虚偽の表示や誤解を生じさせる表示と見なされる可能性があると考えられます。改正によって求人情報の的確な表示が追加されたことで、より明確性や透明性を確保した公正な求人表示に向けた目線が求められる時代になったといえるでしょう。

(小岩 広宣/社会保険労務士法人ナデック 代表社員)

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