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2023年5月11日

小岩広宣社労士の「人材サービスと労務の視点」174・「年収の壁」問題について

Q 最近しばしば「年収の壁」問題を耳にしますが、具体的にはどのような内容のものでしょうか。

koiwa1.png 「年収の壁」問題とは、主婦パートなどが一定の労働時間を超えて働くと、第3号被保険者や健康保険の被扶養者制度から外れてしまい、収入が増えたにも関わらず手取り収入が減ってしまう問題のことをいいます。コロナ禍の影響もあって今後の人手不足が加速するとみられることから、今年の国会でも取り上げられ、国としても働き手や働く意欲を抑制しているこのような矛盾への対応や対策が求められています。

 「年収の壁」としては、「103万円」や「130万円」が有名ですが、実際にはそれだけではなく、具体的には以下の数字が挙げられます。この図表は内閣府男女共同参画局が示しているものですが、年収が上がるにしたがってさまざまな税制や保険料の影響を受けるイメージがつかめると思います。

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(「女性の視点も踏まえた社会保障制度・税制等の検討」令和4年12月22日、内閣府男女共同参画局)


 野村総合研究所(NRI)の試算によると、夫の年収500万円(別途家族手当)、妻は106万円超で社会保険加入、2人世帯というモデルでは、妻の年収100万円のとき世帯手取り額は513万円であるにも関わらず、妻の年収が106万円に増えると世帯手取り額は489万円となり、差し引き24万円が減少する「働き損」が発生するとされ、逆転現象を解消するためには、妻の年収が138万円となる必要があり、当初の年収から4割増となることが求められるとされます(「『年収の壁による働き損』の解消を―有配偶パート女性における就労の実態と意向に関する調査より―」2022年10月27日)。

 「年収の壁」への解決策として、政府は手取りが減るパートタイマーを救済するために、社会保険料を肩代わりする助成金を検討していますが、税金を原資とする助成金を特定の労働者にだけ給付する点の適否、社会保険に加入することで将来受ける年金額が増える点の矛盾などを総合的に考慮すると、たやすく着地点が見いだせる問題とはいえないかもしれません。最終的には、第3号被保険者や被扶養者自体を撤廃することが根本的な解決につながると考えられますが、従来の"昭和型モデル"が果たしてきた役割や歴史的な経緯を急進的に旋回させる政策には国民的な理解が不可欠だといえ、一朝一夕には解決するテーマではないといえます。

 とはいえ、「年収の壁」の問題は、男女雇用機会均等、男女共同参画、同一労働同一賃金、男性育休の推進などといった多面的に推進されている国策とある意味矛盾する面をはらんでいるのは間違いないことから、国として最低賃金1000円を目指す時代に相応しい、男女がともに尊重し合い支え合いながら、仕事も家庭も両立させていく仕組みへと変化していく、具体的な道筋が求められているといえるでしょう。

(小岩 広宣/社会保険労務士法人ナデック 代表社員)

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