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2023年11月 2日

小岩広宣社労士の「人材サービスと労務の視点」199・「年収の壁」への対応について④

Q 「社会保険適用促進手当」とは、具体的にどのようなものでしょうか。

koiwa1.png 「年収の壁・支援強化パッケージ」の一環として、「社会保険適用促進手当」の措置が導入され、その活用が推奨されています。短時間労働者が新たに社会保保険の被保険者となった場合は、保険料負担が生じることによってその分の手取り収入が減少する「逆転現象」が起こるため、当該者の保険料負担を軽減することを目的として、社会保険適用にともなって新たに発生した本人負担分の保険料相当額を上限として、保険料算定の基礎となる標準報酬月額・標準賞与額の算定に考慮しない措置が講じられることになりました。このことを「社会保険適用促進手当」といいます(最大2年間の時限措置)。

 具体的には、年収106万円(標準報酬月額8.8万円)の人が、令和6年10月の適用拡大によって被保険者になった際に社会保険適用促進手当が支給された場合の試算(概算)は、以下のようになります。年収106万円の人が被保険者になると、16万円の保険料が発生するため、手取りは90万円となり「逆転現象」が起こります。この保険料負担分(16万円)を補うために事業主が同額の手当を支給すると、それにともなって保険料が18万円に引き上がってしまい、手取り収入は103万円となり「逆転現象」は解消しません。そこで「社会保険適用促進手当」を活用して保険料負担分(16万円)を保険料の算定対象としない手当として支給すると、下図のように手取りは106万円となり「逆転現象」が解消することになります。

社会保険適用前 社会保険適用後
手当の支給なし 手当あり
算定対象とする場合
手当あり
算定対象としない場合
報酬対象となる報酬 106万円 106万円 122万円 106万円
(対象外・手当16万円)
本人負担分の保険料 16万円 18万円 16万円
手取り収入 90万円 90万円 103万円 106万円
事業主の追加費用 16万円
(保険料16万円)
34万円
(手当16万円、保険料18万円
32万円
(手当16万円、保険料16万円


 社会保険適用促進手当は「106万円の壁」への対応として適用されるものであることから、その対象となる標準報酬月額が10.4万円以下の人が対象となりますが、事業所内での労働者間の公平性を考慮して、すでに被保険者となっている労働者であっても、同一事業所内で同じ条件で勤務する人については措置の対象となります。

 社会保険適用促進手当の対象となりうる場合に、実際に当該手当を支給するかどうかは事業主の判断に委ねられることになり、社会保険料の加入のタイミングから遅れて支給したり、数か月分をまとめて支給することも認められます。国が「年収の壁」のテーマについて周知や啓蒙に取り組んでいることもあって、該当する労働者の興味関心が高いと考えられることから、自社において実際にどのような取り組みを行うかの判断と対応を確実に行っていくことが求められるといえるでしょう。

(小岩 広宣/社会保険労務士法人ナデック 代表社員)

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