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2023年11月 9日

小岩広宣社労士の「人材サービスと労務の視点」200・「年収の壁」への対応について⑤

Q 「事業主の証明による被扶養者認定」とは、具体的にどのようなものでしょうか。

koiwa1.png 「130万円の壁」への対応として、事業主の証明による被扶養者認定の円滑化がはかられることとなり、130万円の被扶養者認定基準について、労働時間延長等による一時的な収入変動である旨の事業主の証明を提出することで、保険者による円滑な被扶養者認定がされることとなりました。令和5年10月20日に発出された通達(年管管発1020第1号)の「事業主の証明による被扶養者認定Q&A」において、詳しい実務取り扱いについて整理されています。

事業主の証明による被扶養者認定Q&A(年管管発1020第1号)


 具体的には、被扶養者認定にあたって事業主の証明が提出され、人手不足による労働時間延長等にともなう一時的な収入変動である旨が確認された場合には、被扶養者の年間収入が130万円以上となっても被扶養者認定が当面維持されることになります。「一時的な収入変動」と認められる上限額は明らかにされておらず、各保険者において雇用契約書等を踏まえて増収が一時的なものかを判断することが求められています。

 Q&A(1-5)では、「被扶養者が被保険者と同一世帯に属している場合に、被扶養者の年間収入が被保険者の年間収入を上回る場合」「被扶養者が被保険者と同一世帯に属していない場合に、被扶養者の年間収入が被保険者からの援助による収入額を上回る場合」には法令・通知に基づいて被扶養者の認定が取り消されるとされていることから、事実上は明確な収入要件はないといえるかもしれません。

 どのような事情であれば「一時的な収入変動」として認められるかという点については、事業所の他の従業員の退職や休職による業務量の増加、業務の受注増や事業所全体の業務量の増加、突発的な大口案件による業務量が増加したケースなどが想定され、労働者の基本給が上がった場合や、恒常的な手当が新設された場合などは、一時的な収入増加とは認められないとされます(A1-8)。実際にはこれらの例示に当てはまらず、判断を迷うようなケースも存在すると考えられますが、通達やリーフレットなどで明示的に「人手不足による労働時間延長等」という表現が用いられ、「一時的な事情によるものかどうかは収入金額のみでは判断が困難」だという認識が示されていることからすると、昨今の慢性的な人手不足による採用難や厳しい人材配置の実情を踏まえて多くの場合は該当しうるケースが多いのではないかと考えられます。

 事業主の証明による被扶養者認定の措置は、通達(Q&A)の発出日である10月20日以降の被扶養者認定や被扶養者の収入確認において適用され、それより前については遡及しない取り扱いとされています。具合的には、令和5年の年間収入が130万円以上となることが見込まれる被扶養者の収入確認において適用される例が多発すると思われるため、事業所としては該当被保険者・被扶養者について必要に応じて対応することが求められます。すでに以下の証明書様式も公開されていますので、しっかり措置の内容を理解した上で、確実な実務対応をしていきたいものです。

被扶養者の収入確認に当たっての「一時的な収入変動」に係る事業主の証明書


(小岩 広宣/社会保険労務士法人ナデック 代表社員)

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