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2024年1月25日

小岩広宣社労士の「人材サービスと労務の視点」211・能登半島地震被災に関する対応について③

Q 能登半島地震に伴って時間外・休日労働に関するQ&Aが出されたと聞きましたが、具体的にはどのような内容ですか。

koiwa24.png 「令和6年能登半島地震に関するQ&A(労働基準法第33条第1項関係)」が、1月10日、厚生労働省労働基準局から公開されました。労働者に時間外・休日労働をさせる場合には、原則として36協定を締結して労働基準監督署に届け出ることが必要ですが、災害その他避けることができない事由によって、臨時の必要がある場合には、労働基準監督署長の許可を受けることで、36協定を締結することなく時間外・休日労働が認められ、事態急迫のため許可を受ける暇がない場合は、事後に遅滞なく届け出なければならないとされています(33条1項)。

 許可の対象となるかどうかは許可基準(令和元年6月7日付け基発0607第1号)に基づいて、個別具体的に判断されますが、今回の能登半島地震に際して想定されるケースについて、以下の7例が示されています。

①復旧に先立って、能登半島地震の被害状況を詳しく調査するための測量や復旧に向けた設計 対象となる
②復旧のため、倒壊した建物の解体作業や、道路上から瓦礫を撤去する作業、損壊した建物の修繕工事 対象となる
③自治体等からの要請を受けて被災地内での災害復旧工事の応援 対象となる
④被災地外のトラック運送事業者が、国や自治体等からの要請を受けて避難所避難者のための支援物資を被災地まで直接届ける 対象となる
⑤トラック運送事業者が、能登半島地震の影響で渋滞が多く、迂回路を通らざるをえなくなり、平時よりも輸送に時間がかかってしまう(被災地への支援物資の輸送ではなく、あくまでも通常業務) 対象とならない
⑥被災地内の医療機関が、能登半島地震で負傷者などの救護等に当たっており、平時をはるかに上回る数の搬送などがある 対象となる
⑦被災地外に所在する医療機関が、被災地内の医療機関では 受け入れきれない負傷者を、自治体や被災地内の医療機関等からの要請により受け入れている 対象となる


 「対象となる」「対象とならない」はあくまで一般的な考え方として示されており、具体的には個別の状況や事情によって判断されることになりますが、唯一、「トラック運送事業者が、能登半島地震の影響で渋滞が多く、迂回路を通らざるをえなくなり、平時よりも輸送に時間がかかってしまう(被災地への支援物資の輸送ではなく、あくまでも通常業務)」という事例が「対象とならない」と判断されているのは、社会通念としても無理なく理解されると思います。

 今回のQ&Aにおいて、「能登半島地震の被害は相当程度のものであり~」、「~○○(業務)は一般に人命・公益の保護の観点から急務であると考えられます」という認識が示された上で、行政の考え方や解釈が公開されたことの意味は大きいといえるでしょう。労基法33条の実務上の判断が求められる場面において、今後の指針として参考にしていきたいものです。

(小岩 広宣/社会保険労務士法人ナデック 代表社員)

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