勇気を持って多様性を認め合うための「手引書」
著者・鎌倉 美智子・小岩 広宣・寺田 智輝
労働新聞社、定価1980円(税込)
毎日のように「ジェンダー」という言葉を耳にする時代。ある意味、男女平等とか女性活躍推進という語感には使い古された感すらあり、昨年6月に施行された「LGBT理解増進法」をめぐる議論も、さほど目新しさはなくなってきた。それだけ浸透してきても、「ジェンダーフリー」を堂々とタイトルに掲げる書籍はまだ少ない。本書は読み手の立場や状況、バックボーンなどによって、受け止め方にかなり幅がある一冊と言えるだろう。
2人の社会保険労務士と1人の講演家による共著だ。社労士の鎌倉氏は中小企業の採用支援に詳しい立場からマイノリティも含めた採用定着のロードマップを示し、小岩氏は20年に渡って中小企業の労務管理に携わってきた目線から、昨今の職場で起こっているリアルな変化とジェンダーギャップの中での「男の生きづらさ」を問題提起する。寺田氏はマイノリティ当事者として全国で講演活動をする立場から、苦悩と挑戦の半生についてダイナミックに綴っている。
法律や労務に触れる社労士とリアルな講演家の「書きぶり」の違いに違和感を抱くかと思いきや、全体として各著者の思いがありのままに表現され、かつ読者に正面から問いかける構成になっており、若者世代のみならず経験豊富なビジネスマンが手に取っても今の時流を読み解くヒントが得られる。ジェンダーフリーというと、両性の特性や意義を脇に置き、ひたすら平等化と均質化を目指す思考と見る向きもあるが、必ずしも本書はそのような先鋭的な立場をとってはおらず、むしろ3人の著者がそれぞれの視点から、女性、男性、マイノリティの目線を代弁している部分も垣間見え、複雑化する世相へのバランス感覚を提起している。
「LGBT理解増進法」の施行によって、さまざまな立場の人たちの相互理解や利害調整が求められる状況の中で、あえて三者のスタンスからジェンダーの今と将来を語る本書は、これから私たちが迎える時代への心構えや処方箋となるだろう。(N)