Q 6月1日から職場における熱中症対策の強化が義務化されると聞きましたが、具体的にはどのような内容でしょうか。
A まだ5月だというのに、早くも夏のような暑さが襲い、多数の地域で真夏日を観測したことがニュースになりました。地球温暖化の影響もあり、熱中症を発症する人も年々増えており、職場における熱中症の災害発生状況も深刻化しています。このような状況を受けて、改正労働安全衛生規則が6月1日から施行され、職場における熱中症対策が義務化されます。新設された該当条文は、以下です。
第612条の2
事業者は、暑熱な場所において連続して行われる作業等熱中症を生ずるおそれのある作業を行うときは、あらかじめ、当該作業に従事する者が熱中症の自覚症状を有する場合又は当該作業に従事する者に熱中症が生じた疑いがあることを当該 作業に従事する他の者が発見した場合にその旨の報告をさせる体制を整備し、当該作業に従事する者に対し、当該体制を周知させなければならない。
2 事業者は、暑熱な場所において連続して行われる作業等熱中症を生ずるおそれのある作業を行うときは、あらかじめ、作業場ごとに、当該作業からの離脱、身体の冷却、必要に応じて医師の診察又は処置を受けさせることその他熱中症の症状の悪化を防止するために必要な措置の内容及びその実施に関する手順を定め、当該作業に従事する者に対し、当該措置の内容及びその実施に関する手順を周知させなければならない。
上記の施行により、事業者は「熱中症を生ずるおそれのある作業」を行う際には、一定の措置を講ずることが義務付けられます。具体的には、以下のいずれかに該当する作業となります。
・気温31度以上の環境で連続1時間以上、もしくは1日4時間以上の作業が行われる現場
「WBGT(湿球黒球温度)、Wet Bulb Globe Temperature)とは、あまり耳慣れない言葉ですが、「暑さ指数」ともいい、熱中症を予防することを目的として設定された指標です。湿度、日射・輻射など周辺の熱環境、気温の3つを取り入れた指標であり、純粋な気温よりも人体が感じる暑さに近い数値といわれています。環境省の熱中症予防情報サイトでは「暑さ指数(WBGT)の実況と予測」が公表されており、現場の状況の判断の参考にすることができます。
環境省熱中症予防情報サイト 「暑さ指数(WBGT)の実況と予測」
今回の義務化では、熱中症予防の措置として、「見つける」→「判断する」→「対処する」のフローを構築することが求められており、事業者に向けてのパンフレットやリーフレットでも、以下の具体的な措置内容について、取り組みが喚起されています。
②重症化を防ぐための応急処置や医療機関への搬送など手順の作成
③それらの内容の関係者への周知の措置
事業者は、熱中症のおそれがある労働者や、熱中症の初期症状がある労働者を早期に発見できる仕組みづくりに取り組むとともに、熱中症の疑いがある労働者について、迅速かつ的確な判断を行い、重篤化を防ぐための措置を講じなければなりません。具体的には、熱中症のおそれがある者に対する処置について、自社の取り組みフローを構築し、実務的な流れと責任の所在を明確にした上で、社内的な周知を徹底することになります。厚労省が公開するパンフレットやリーフレットでフロー図の事例が掲載されていますので、参考にしたいものです。
なお、事業者が上記の熱中症対策の義務に違反した場合には、罰則の対象となり、6カ月以下の懲役、または、50万円以下の罰金に処される可能性があります。今年も過酷な夏の暑さにより、職場における熱中症の発生が懸念されますので、まずは上記の改正内容への具体的な措置への取り組みからスタートし、責任者や担当者はもとより労働者全般への熱中症対策への啓発を進めていきたいものです。
(小岩 広宣/社会保険労務士法人ナデック 代表社員)