Q 国の審議会でまとめられた報告書で、「アンコンシャス・バイアス」について触れられたと聞きましたが、具体的にはどのような内容でしょうか。
A 「アンコンシャス・バイアス」(unconscious bias)とは、無意識の思い込みのことをいいますが、こうしたバイアスが強すぎると、個人の成長機会の損失、社会や組織のコンプライアンス違反といったネガティブな影響が出てしまう可能性があるとして、国からも具体的な対策や啓発の必要性が提起されています。
一方、5月8日の労働政策審議会労働政策基本部会で、「急速に変化する社会における、地方や中小企業での良質な雇用の在り方」と題する報告書が了承され、先日厚労省から公表されました。このうち、「第2章 地方、中小企業の課題の解消に向けて目指すべき施策の方向性」として「労働生産性の向上」など大きく4つの提言がなされており、その1つに「ジェンダーギャップの解消」が挙げられ、「ジェンダーギャップの解消」については、真っ先に「若年層、中高年層、高齢層など全ての年齢層に対するアンコンシャス・バイアス解消を含めた取組みが行われることが重要」と指摘されています。
「第2章 地方・中小企業の課題の解消に向けて目指すべき施策の方向性」
「ジェンダーギャップの解消」に資する施策のうち、社会全体での取組みの推進として、「ジェンダーギャップの解消には、労働政策による企業・労働者への働きかけ、学校段階からの教育政策の取組み、男女共同参画政策を通じた社会意識への働きかけなどを通じ、若年層、中高年層、高齢者など全ての年齢層に対するアンコンシャス・バイアス解消を含めた取組みが行われることが重要である」とされ、審議会での議論の総括として、「地域に根強い固定的な性別役割分担意識等を解消し、職場や地域社会などにおいて、女性の意見を取り入れ、反映するとともに、意思決定過程への女性の参画を促進する取組みを地方社会全体で行うことが重要である」という認識が示されています。
「さらに、男性の家事・育児の積極的な参画など女性が活躍できるような環境整備を進めることが必要である」とあるように、一面的に女性活躍推進を目指すだけでなく、男性に対する意識の変革、社会全体や職場などにおける環境整備を期待している点にも注目する必要があるでしょう。「また、本部会では、これらの取組みを進めることが、アンコンシャス・バイアスがないという世界で、真の意味でのダイバーシティ社会の実現につながるとの意見があった」という議論の経過にも触れられていますが、全体として従来の認識よりも踏み込んだメッセージが感じられるといえるでしょう。
さらに、経営者や人事責任者による、誰もが活躍できる職場づくりの取り組みを見直すためのワークショップや、大学生と企業とのアンコンシャス・バイアスをめぐる意見交換会などの取り組みにも触れられていますが、実際に現場でアンコンシャス・バイアスをめぐる研修やワークショップなどを実施する筆者の肌感覚からも、一定の効果が期待できることを痛感します。職場のみならず、家庭や地域社会における慣習や慣行も含めて、固定的性別役割分担意識やアンコンシャス・バイアスをはじめとした「ジェンダーギャップの解消」を進める方向性に向けて、それぞれができることから具体的に取り組んでいきたいものです。
労働政策審議会労働政策基本部会報告書~急速に変化する社会における、地方や中小企業での良質な雇用の在り方~(令和7年5月8日)
(小岩 広宣/社会保険労務士法人ナデック 代表社員)