Q 賞与支給の時期となりましたが、あらためて賞与支払届の実務上のポイントを教えてください。
A 今年も夏の賞与シーズンを迎え、多くの企業では賞与支払届の提出時期となっています。給与計算や賞与支給と並行して行うため、事務担当者にとっては慌ただしい時期ですが、支給日から5日以内に日本年金機構(年金事務所)に「被保険者賞与支払届」を提出しなければなりません。賞与支払届は、毎月の健康保険・厚生年金保険の保険料計算や、将来受給する年金額の基礎となる「標準賞与額」を決定するための重要な手続きであり、正確な作成が求められます。しかし、定時決定(算定基礎届)などに比べて支給時期が限られていることから、思わぬ記載漏れや手続きの誤りが発生しやすい傾向にあります。
まず注意したいのが「賞与支払年月日」です。支給額は正しく記載していても、支払年月日の記入漏れや誤りによって返戻となるケースが多く見られます。賞与の支払日は標準賞与額を決定する基準となるため、実際に支給した日を正確に記載しなければなりません。また、賞与額についても、税引前の総支給額を記載することや、対象となる手当を適切に含めることなど、基本事項の確認が重要です。
また、賞与が不支給だった場合の対応も大切です。日本年金機構にあらかじめ賞与支給予定月として登録されている月に、業績不振や個人の査定等の理由により「全従業員に対して賞与を支給しなかった」という場合であっても、手続きが不要になるわけでなく、賞与支払届の代わりに「被保険者賞与不支給報告書」を提出する必要があります。これを怠ると、年金事務所からは「未提出」の状態とみなされ、督促や確認の連絡が入ることになります。「出さなかったから出さない」のではなく、「出さなかったという報告をする」というルールを徹底しなければなりません。
次に、対象となる「賞与」の範囲の見極めです。労働の対償として受けるもののうち、年3回以下支給されるものはすべて社会保険上の「賞与」に該当します。「賞与」という名称でなくとも、「決算手当」「期末手当」「お年玉」といった名目で支給されたものであっても、その実態が年3回以下の支給であれば、賞与支払届による報告が必要です。逆に、年4回以上支給されるものは毎月の「報酬」に組み込まれ、随時改定(月変)などの対象となるため、回数のカウントと性質の区別には細心の注意が必要です。
さらに、実務でトラブルになりやすいのが「退職者の取り扱い」です。賞与の算定期間や支給日と、従業員の退職日(資格喪失日)の関係は非常に厳密です。賞与支給月に退職した従業員について、退職日当日に賞与が支払われた場合や、退職月の末日までに退職(資格喪失)した場合の保険料徴収の有無など、資格喪失のタイミング(退職日の翌日)が賞与支給日より前か後かによって、保険料がかかるかどうかが変わります。具体的には、月末までに退職した場合はその月の保険料は免除(徴収不要)となりますが、賞与額そのものの報告(賞与支払届の提出)自体は必要となるケース(標準賞与額の累計額に算入されるため)があります。このように、「保険料は発生しないが、届出は必要」という複雑なケースがあるため、自己判断せず手引きを確実に確認することが求められます。
最後に、近年の電子申請や磁気媒体(CD-R等)による申請における入力エラーの防止です。基礎年金番号やマイナンバーの記載漏れ、氏名のフリガナ誤り、また、賞与支払年月日の入力ミスなどが多く散見されます。特に育児休業等による保険料免除期間中の従業員であっても、賞与が支給された場合は必ず賞与支払届の提出が必要となる点も、見落としがちなポイントです。
賞与支払届の適切な提出は、企業のコンプライアンス遵守のみならず、従業員の将来の年金受給権を正しく守ることへと直結します。提出期限は「賞与を支給した日から5日以内」と非常にタイトです。支給日が近づいた段階で、あらかじめ対象者のリストアップや不支給報告書の要否を確認し、スムーズな事務連携を行える体制を整えておきたいものです。
(小岩 広宣/社会保険労務士法人ナデック 代表社員)






















