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2012年8月 6日

ライフネット生命保険の出口治明社長に聞く(上)

「レガシー・システム」の崩壊

 なぜ「ネットの生命保険」はないのか。生保は保険料が高すぎて「20代、30代の私たちにはムリ」――。この素朴な疑問に応え、新たな生命保険のビジネスモデルを実践しているのがライフネット生命の出口治明社長だ。出口社長の生保の役割、自身の役割についてうかがうと、生保業界の枠を超えた世界観、人生観が浮かび上がってくる。(大野博司・報道局長)

―― 開業5年目で保有契約が13万件を超え、今年3月には東証マザーズに上場するなど、勢いが止まりません。

is120806.jpg出口 時代の要請に合致したからでしょうね。既存の生保営業は、いわゆる「営業職員」の大量採用・大量脱落を前提にした対面販売が基本でした。だから、人件費や営業所などのコストがものすごく掛かる。それをカバーするために、商品を大型化し、複雑な特約をたくさん付けて保険料収入を増やしてきました。これらを総合して「レガシー・システム」と言います。

 その結果、商品構成が複雑になり過ぎ、約款だけが分厚くなりました。でも、営業職員の質が向上しないから、約款の内容を顧客に説明できない。かつて問題になった保険金の不払い問題には、そうした背景があったのです。

―― 保険加入者にとっても、商品比較はむずかしいですね。最後は「どれが良いかよくわからないけど、熱心に営業に来てくれるから」という理由で加入することが多いです。

低成長と少子化の構造変化に対応

出口 既存生保にとっては、「比較」されたくないのです。1990年代半ばの「金融ビッグバン(自由化)」までは、比較広告自体が禁止されていましたし、各社の商品だけを売る専業代理店しか認可されませんでした。各社の商品を並べる「乗合代理店」がなかったのは、そのためです。自由化後も、既存体制がしばらく続きました。一度出来上がったビジネスモデルというのは、容易に変更できません。

 しかし、バブル崩壊以後の「失われた20年」の間に、日本は低成長と少子高齢化という戦後初の構造変化を体験し、若者の正社員・非正規社員といった二極化が進み、生保商品も従来のままでは通用しなくなりました。私がインターネットで生保商品を売るという新規ビジネスを考えた背景には、そうした社会構造の変化に既存生保が対応しようとしなかったからです。

―― ライフネット生命の商品構成は単純で、情報開示も徹底しています。「ビジネスモデルのデザイン」で11年度のグッドデザイン賞(日本デザイン振興会主催)も受賞しました。しかし、当初は既存勢力の目は冷ややかだったと聞きます。

出口 商品も営業も、すべて既存生保とは異なったからでしょうね。商品は特約のない基本的な3種類だけで配当、解約返戻金など一切なし。保険金などは3日以内の支払いを目指し、約款や商品コストはすべてネットで開示して透明にしました。

 ゼロからのスタートでしたが、開業5年目のこの6月末で保有契約件数は13万件を超えました。狙い通り、お客様は7割以上が20~30代の若年層です。  (つづく)

 

出口 治明氏(でぐち・はるあき)1948年、三重県生まれ。72年京都大学を卒業、日本生命に入社。ロンドン現地法人社長、国際業務部長などを経て主に経営企画を担当、生命保険協会の初代財務企画専門委員長として、金融制度改革・保険業法改正に携わる。06年退職、「ネットライフ企画」(現ライフネット生命保険)を設立、社長に就任。『生命保険入門 新版』(岩波書店、09年)など著書多数。

【ライフネット生命保険】06年、出口氏とハーバード経営大学院出身の岩瀬大輔氏(現副社長)が「ネットライフ企画」を設立。08年、「ライフネット生命保険」に商号変更、生命保険業免許を取得。
  「かぞくへの保険」「じぶんへの保険」「働く人への保険」の3種類をネット販売し、12年6月末の保有契約件数は13万2551件。開業から4年弱の12年3月15日に東証マザーズ上場。同年3月期の経常収益(売上高)は37億7300万円、従業員87人(12年8月1日現在)。
HPはhttp://www.lifenet-seimei.co.jp/

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