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2012年10月 8日

人材サービス産業協議会が設立式

共有する付加価値に磨き、4団体が横断的連携

 日本の人材サービス業界を横断する新組織「一般社団法人 人材サービス産業協議会」(JHR、中村恒一理事長)の設立式が1日、東京で開かれた=写真=。日本経済にとって、労働力の需給調整機能と雇用の創出などを担う重要な業界にもかかわらず、業界に対する社会の評価はそれと比例していない。業界が欧州をはじめとする諸外国のように公益性の側面を有する産業として認知されていくかどうか、今後の活動が注目されている。(報道局長・大野博司)

i12108.jpg JHRは全国求人情報協会、日本人材紹介事業協会、日本人材派遣協会、日本生産技能労務協会の業界4団体が集まり、2011年6月に前身の「人材サービス産業の近未来を考える会」が発足、今年7月1日に協議会としてスタートした。関係する他の協会の加盟の門戸は設立後も開けている。

 近未来を考える会が発足時に作成した「2020年の労働市場と人材サービス産業の役割」では、4業界を合わせた年間市場規模は約9兆円で、鉄道と介護サービス産業の間に位置する規模。取り扱い求人は約801万件、約475万人に対してマッチングや就業管理を行っており、日本経済にとって不可欠な存在となっている。

 しかし、法令に従わない悪質企業がメディアをにぎわせ、08年のリーマン・ショックをきっかけにしたいわゆる「雇い止め」や「派遣切り」などで、派遣・請負を中心にした業界は「非正規問題の元凶」のごとく批判され、労働者派遣法の改正を招くなど、イメージダウンが一気に進んだ。改正派遣法の政府案の大幅修正にもその一端がうかがえるように、各協会の努力もあって「派遣=悪」の“大合唱”は払しょくされつつあるが、まだまだ評価は厳しい。JHRの設立は、人材サービスに関連する既存の各協会が集まり、積極的な情報発信を通じて正当な社会の理解を得ることも大きな目的のひとつだ。

 1日の発表では、まず(1)派遣・請負スタッフらのキャリア形成支援(2)ミドル層を中心とした異業種へのキャリアチェンジ支援(3)人材サービス産業に携わる人材育成――の3プロジェクトがスタートしている動きを紹介。それぞれに委員長を置き、各協会に加盟する会社から選出したメンバーによるワーキンググループを形成。3プロジェクトとも有識者に加え、厚生労働省の派遣・有期労働対策部需給調整事業課などの行政機関にオブザーバーになってもらい、官民一体となった事業であることを印象付けた。

目的意識の共有化と実行力がカギ

 一方、次世代の健全な労働市場の形成に向け、JHRが乗り越えるべき課題も多く、ハードルは高い。

 この日、来賓に招かれた厚労省の宮川晃同部長は「業界の枠を超えた横断的な取り組みには、行政としても支援したい」と述べる一方、改正派遣法への協力も要請。また、企業側を代表して、経団連の川本裕康常務理事は「日本の産業空洞化が進んでいる時に、派遣法改正などの規制強化で事業環境はさらに厳しい。国内にとどまれるかどうか、需給調整機能が重要になる」とエールを送り、労働者代表のUIゼンセン同盟の逢見直人氏は「労働市場の多様化が貧困の再生産になってはならない。協議会のキャリア形成支援などに期待したい」と注文を忘れなかった。

 「労働者保護」を最重要に位置づける現在の厚労省と労組、労働分野の規制強化に反対する産業界という対立の構図が、この日の3人の「祝辞」にもにじみ出ていた。JHRがこうした各方面の「声」にどこまで応え、貢献できるかは、今のところ未知数だ。

 また、4団体はこれまでの活動をそれぞれ継続しながら、JHR活動にも参画する。派遣協は人材派遣事業、人材協は人材紹介事業など、4団体のサービス業態はそれぞれ異なるだけに、目的意識を共有できないとJHRが屋上屋を重ねてしまう懸念が残る。

 中村理事長は「人材サービス業界は個々の活動と同時に、共通テーマについては協議会の情報発信を通じて、より多くの就業機会を生み出せるよう努めたい」と強調。前進的な動きに期待は高まるが、狙いが奏功するかどうか、試みは緒に着いたばかりだ。
 

【人材サービス産業協議会のホームページ】
http://www.j-hr.or.jp/

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