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2014年5月19日

ハローワーク、求職情報の民間提供に向けた課題

インターネット上に専用サイトを新設へ

 厚生労働省は、ハローワークの求職情報を民間の人材ビジネス会社などに提供する「ルールづくり」の検討を本格化させた。インターネット上に「求職情報サイト」(仮称)を新設する構想で、来年度予算に計上し、できるだけ早い段階で運用にこぎ着けたい考え。14日には有識者6人を集めて検討会の初会合が開かれ、来月6月上旬の報告書作成を申し合わせた。足早に進む議論について、その経緯や背景、課題などを整理する。(報道局)

検討会設置までの経緯

is140519.jpg この構想は、ハローワークに求職に訪れた人たちの個人情報を民間の人材ビジネス会社などにも提供することで、官民挙げた「マッチングの最大化」を狙っている。昨年6月に閣議決定した「日本再興戦略」に基づく動きの一環だ。
 その中には「民間人材ビジネスの活用によるマッチング機能の強化」が掲げられており、その具体的措置の一つとして、「ハローワークが保有する求職者情報の開放について、直ちに求職者と民間の人材ビジネス会社の双方にニーズ調査を実施し、13年度末をメドに結論を得ること」との内容が盛り込まれた。

 これを踏まえて厚労省は、昨年10月から11月にかけて「求職者向け」と「民間人材ビジネス会社向け」のアンケートを実施。それで分かった反応は、求職者が自分の情報を「提供可能」とし、また人材会社が「提供希望」とした合計の割合が、双方ともに3分の2程度を占めるというものだった。

 提供する情報の範囲については、プライバシーの問題も絡み、双方でかい離があったが、厚労省は基本線として「ニーズはある」と認識し、労働政策審議会職業安定分科会にアンケート結果のポイントを提示するとともに、並行して具体的な「情報提供の仕組み」を検討してきた。

 そして、アンケート結果とサイト開設の基本的な考え方をまとめた「中間的整理」(3月公表)に加え、具体的な仕組みのたたき台となる厚労省作成の「今後の論点」(5月公表)を基に、議論を深めるテーブルの用意を急ぎ、同分科会の了解を得た。これが、今回の検討会設置までの経過である。

求職情報の提供先(人材会社)の条件など焦点

 「情報提供」という言葉だけが先行して誤解のないよう押さえておきたいのは、同分科会が「基本的な考え方」に明記している通り、(1)求職者の希望者のみが対象、(2)提供先となる人材ビジネス会社は要件をクリアした事業者のみを対象、(3)サイトには個人が特定される情報は提供しない――という大前提がある。つまり、ハローワークを訪れたすべての人の情報が自動的に求職情報サイトに掲載されるわけではない。また、ハローワークも民間の動きとは別に従来通り求人企業とのマッチングを担う。

 14日に初会合が開かれた「ハローワークの求職情報の提供に関する検討会」。メンバーは労働組合(求職者関係)と経済団体(求人者関係)、学識経験者ら6人で構成され、座長に鎌田耕一東洋大教授が就いた。ハローワークと民間人材ビジネス会社の連携強化については、ひと足早く「求人情報のオンライン提供」が9月から実施される見通しだが、今回は個人情報の取り扱いなどに注意が必要な「求職者情報の提供」とあって、ルールづくりは容易でない。

 検討会の初会合で示された、議論のたたき台となる「今後の論点」では①求職情報サイトの仕組み、②情報の提供先の範囲(条件)、③求職者の範囲と求職者情報の範囲、④トラブル防止を念頭に置いた利用方法のポイント、⑤求職者と提供先双方の利用手続き、⑥苦情処理・違反行為の防止体制、⑦人材会社から利用料金を徴収しない――などの項目が並んだ。

 その中で特に関心が寄せられたのは、「個人情報保護と提供先の参加条件」、「利用料金の徴収の有無」の2点。個人情報に関して、労組側は「アンケート結果でも求職者は利用に期待する一方で情報漏えいを懸念している。参加できる事業者は相応のハードルが必要」と提言。これに対し、経済団体側は慎重を期すことに賛同したうえで、「厚労省案のプライバシーマーク取得事業者では現時点で46社のみで敷居が高い。目的であるマッチングの最大化につながらない」などと指摘した。

 また、事業者の利用料金について労組側は「国費を使ったシステムで利益を得るのだから、申請時か更新時などにそれなりの料金を徴収すべきだ」としたが、経済団体側は「厚労省案の通り、マッチングにかかるインフラとして公共財的な性格を持つことから料金徴収の必要はない」と主張した。

 個人情報の取り扱いレベルを軸にした参加条件と、人材会社からの利用料の有無については、今後の議論と帰着点が注目される。

利用度や予算規模などはこれから

 また、初会合では、事務局の厚労省に対して労組側と経済団体側の双方から共通した質問も挙がった。それは、システムの構築にどれだけの経費がかかり、原資はどこにあるのか。また、活用度の目標(数値)をどこに置くのか、といった「そもそも論」にかかわるものだ。

 「仕組みづくり」以前のテーマであるものの、とても重要な観点といえる。「システム構築と運用に巨額の国費、税金が投じられると思うが、効果検証ができる形でなければいけない」、「サイトの利活用の目標値や潜在的なニーズの規模感、全体的なボリュームが見えない」などといった指摘や意見だ。厚労省は議論を深めるためにも、次回会合までに一定の回答を用意することにしている。

 次回は5月23日に開かれ、情報システムや個人情報に関する有識者、さらに民間職業紹介事業者から大規模会社と小規模会社の2社の代表を招いてヒアリングを行う予定。新たなシステムの仕組みづくり、ルールづくりと並列して、この構想の「有益なあり方」に対する議論も注視される。

 

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