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2014年6月23日

渡部昭彦・人材協新会長に聞く

「人材ニーズの変化」に即応できる業界を

 ホワイトカラーを中心とした民間職業紹介の事業者団体、日本人材紹介事業協会(人材協)の新会長に6月10日、渡部昭彦氏(ヒューマン・アソシエイツ・ホールディングス社長)が就任した。4期8年にわたる佐々木和行前会長からバトンを受け、市場の変化に富む業界をどうけん引するか、抱負を聞いた。(聞き手・大野博司=報道局長、労政ジャーナリスト)

―― 人材紹介業界を束ねる人材協のトップとして、どのような取り組みを柱に進めていきますか。

渡部 業界の社会的認知をさらに高め、我々が社会に必要な産業、業界であることを広く知ってもらうことを主眼に置きたいと思っています。外に向かっては知名度を上げるために開かれた組織を、内部的にはコンプライアンス(法令順守)の徹底など、さらなる質の向上を目指します。

―― 政府の規制改革会議などで、労働者派遣法と並んで人材サービスの自由化・高度化を巡り、(事業者に対する)規制緩和と規制強化の両論が議論されています。一連の動きをどのようにみていますか。

is140623.jpg渡部 職業紹介分野に関しては派遣法に比べて議論の方向性がよく見えない面がありますが、職安法制定の歴史は長く、1999年の大幅改正により規制緩和が実現できたとはいえ、その後の人材紹介業を取り巻く環境が大きく変化する中で、現実に対応した見直しは必要だと感じています。

 真に重要なのは、認可を前提としつつも、コンプライアンスの徹底など運用面のフォローをしっかりやる方が大切だと考えます。それを官でやるか民でやるか。もちろん、「すべて官で」という時代ではなくなっていますから、そうした紹介事業の社会的信用を高めていくさまざまな役割や取り組みは「人材協」にとっても、極めて重要なことだと思います。

―― 定時総会後の会長就任のあいさつで「過去にとらわれず、新たな発想で環境変化に対応する」と述べましたが、その真意は?

渡部 業界、協会の今後を見据えたさまざまな思いや考えがあります。一つは人材協発足当初は、業界にはオーナー系企業が多いことと、日本型の「サーチファーム」(求人企業の要望を聞いて人材を探す手法)スタイルが主流でした。それはそれで企業の需要に応える手法だったため、業界の拡大に大いに寄与したと思います。

 しかし、2008年のリーマン・ショックを境に状況は一転し、さらにインターネットを介したマッチングやグローバル化に伴う内外人材のマッチングなど、企業側の人材ニーズは明らかに変化しています。協会としてもその変化をきっちりフォローしていかなければなりません。

 また、そうした流れにあることを踏まえてですが、業界自体が少数の大企業と大多数の中堅・中小企業に二極化しており、中堅・中小の役割と持ち味をどうバックアップしていくかも課題です。中堅・中小の人材紹介会社がウェブのリテラシーで悩んでおられる面もあるなど、旧来型の紹介ビジネスからの脱皮を図ろうとされている会社もあるでしょう。必然な流れとして、中堅・中小企業同士のアライアンス(提携)といったことも今後の課題に上るはずです。
 
 その意味では、ビジネス手法でしがらみの少ない若い経営者層の考えがカギになると思いますし、こういった方々の考えを反映した協会運営を心掛けていきたいと思っています。

今後は「コア人材」の育成がカギに

―― 政府は「限定(ジョブ)型正社員」の普及など、ようやく「正社員改革」に着手しています。ビジネスにどのような影響があるでしょうか。

渡部 内外経済は景気変動の波が激しくなっていて、それに伴って人材の流動化が今後も進展することは間違いありませんし、多様な働き方を制度的にも支える方向への動きも有ります。一方で、企業にとって長期雇用を前提にした「コア人材」が一定程度は必要であることも間違いありません。

 この「コア人材」の確保と多様化する雇用形態への対応を踏まえた上での人材紹介業のあり方が求められていると思いますし、求人企業におけるこれからの人事課題にも更に知見を深める必要があります。

 また、人材協として考えると、現代は多くの企業がそうした層の社内教育に手が回らない状況にあるので、企業外教育を人材協で引き受けるなど、各種研修をルーティン化することも有力な手法になるでしょう。会員企業がこうした人材を育成して、企業に送り込めるようになれば、事業を通じて人材の価値、企業の価値を高め、ひいては日本に活力を生むことになると思うのです。

 

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渡部 昭彦氏(わたなべ・あきひこ) 1956年、東京都出身。79年東大経済学部卒、日本長期信用銀行(現新生銀行)入行。2000年から日本興業銀(現みずほ銀)、セブン&アイHD人事部シニアオフィサー、楽天執行役員などを経て、07年にヒューマン・アソシエイツHD社長。著書に『銀行員の転職力』(日本実業出版社)、『日本の人事は社風で決まる』(ダイヤモンド社)。趣味はジョギングとヨット。12年と13年の2年連続で東京マラソンに出場、フルマラソンを完走した。


【日本人材紹介事業協会】1970年に誕生した有志による懇談会「全国民間人材銀行懇談会」を前身に発展し、2000年に現在の社団法人日本人材紹介事業協会を設立。法人会員は5月末現在、厚労相の認可を受けた219社。会員会社は倫理綱領を採択し、事業運営を展開。事務局は紹介事業に関する各種セミナーや講習会を実施している。協会ホームページ https://www.jesra.or.jp/index.html

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