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2014年6月30日

第186回通常国会 厚生労働関係法案の検証

政府、派遣法案は秋の出し直しを念頭に「廃案」

is140630.bmp  第186回通常国会は6月22日、150日間の会期を閉じた。安倍内閣の安定ぶりを象徴するように、政府提出の新規法案の成立率は97.5%となり、7年ぶりに90%を超える高率となった。厚生労働関係では、過密な日程の中で11本中9本の成立にこぎ着けたが、労働者派遣法改正案は秋の臨時国会で出し直すことを前提とした「廃案」、有期雇用の特別措置法案は参院で継続審議となった。11本法案の経過と概要について成立順に整理、記録する。(報道局)

【改正雇用保険法】
 雇用情勢を踏まえ、雇用保険制度における就業促進手当、教育訓練給付金、育児休業給付金の拡充とともに、既存施策の延長などを実施する。注目されるのは、教育訓練給付金の拡充と教育訓練支援給付金の創設で、今年10月から施行される。

 3月18日に衆院を通過、同28日に成立した。

【改正次世代育成対策支援推進法】
 基本的には同法の有効期限の延長が目的。社会を担う子どもの健全な育成を図るため、子育てしやすい職場や地域環境を整備する。母子・父子家庭に対する支援の拡充、児童扶養手当と年金の併給調整の見直しなどに対応する。

 3月27日に衆院を通過し、4月16日に成立した。

【改正パートタイム労働法】
 3月27日に衆院を通過し、4月16日に成立した。改正の中心は同法8条で規定している「差別的扱いの禁止」の範囲拡大。同法ではパートタイマーであることを理由に「通常の労働者」(正社員)と異なる労働条件で就労することを禁止していたが、対象は①正社員と職務内容が同一、②人事活用の仕組み・運用が同じ、③無期雇用あるいは実質無期雇用――の3要件を満たすパートに限られていたことから、対象者は全パートの1.3%程度に過ぎなかった。

 今回、3要件のうち③を削除して、①と②の2要件を満たすパートに対象を拡大するもので、厚労省の試算では新たな対象者は約10万人、比率は2.1%程度に上がるとみられている。今回の「差別的扱いの禁止」の範囲拡大の考え方は、今後、他の雇用形態にも影響を与えそうだ。施行日は来年4月1日。

【改正医薬基盤研究所法】
 独立行政法人改革に関する閣議決定や、日本再興戦略に基づく「新たな医療分野の研究開発体制」を踏まえ、「独立行政法人医薬基盤研究所」と「独立行政法人国立健康・栄養研究所」を統合し、医薬品及び健康・栄養に関する研究などを実施する独法とするための改正となる。

 4月10日に衆院を通過し、5月14日に成立した。

【難病法(新法)】・【改正児童福祉法】
 難病法案(新法)と児童福祉法(小児慢性特定疾病医療費助成)改正案をセットにして審議が進められた。日本の難病対策は1972年(昭和47年)の発足以来、初めて法的裏付けを持つ制度になった。施行は来年1月。

 難病法成立により、厚生労働省は「基本方針」や関連政省令の策定、医師ら専門家による「指定難病検討委員会」での指定難病の認定、重症度区分の見直しといった具体的な作業に入る。また、事務体制も変更になることから、都道府県や「指定医師」らの研修を通じて周知徹底を図り、施行に間に合わせたい考えだ。

 4月22日に衆院通過、5月23日に成立。新法という難しさはあったが、2010年から厚生科学審議会の難病対策委員会で議論を重ね、昨年12月に難病委が出した報告書を基に法案を作成。国会も超党派議案として優先的に審議を進めてきたこともあり、比較的スムーズに進行した。今後、助成対象の新規認定や重症度区分などを定める政省令の審議や議論に難航も予想される。

【改正国民年金法】
 政府管掌年金事業などの運営改善を図るため、国民年金保険料の納付率の向上に向けた納付猶予制度の対象者の拡大、事務処理の誤りに関する特例保険料の納付の制度の創設、さらには年金記録の訂正手続の創設などを実施する。今年10月の施行だが、項目によっては来年度以降の施策もある。

 5月27日に衆院通過、6月4日に成立した。

【改正介護保険法(改正医療法、改正地域介護施設整備促進法など含む)】
 計19本の法案を一括処理したもので、与野党の攻防が激しい法案審議のひとつとなった。効率的で質の高い医療提供体制を構築するとともに、地域包括ケアシステムの構築を通じ、地域の医療・介護の総合的な確保を推進するのが狙い。5月15日に衆院を通過、6月18日に成立した。

【改正労働安全衛生法】
 化学物質による健康被害が問題となった胆管がんの事案など、最近の労働災害の状況を踏まえ、労働災害を未然防止するための仕組みを充実させる。参院先議で進められた唯一の法案で、4月9日に参院を通過、今国会では最後の6月19日に成立した。

 6項目の対応策が盛り込まれているが、精神障害の労災認定件数の増加に伴う「メンタルヘルス対策の充実・強化」が主要項目のひとつ。具体的には、「ストレスチェック制度の創設」が事業者にとっての留意点で、
① 労働者の心理的な負担の程度を把握するための、医師、保健師らによる検査(ストレスチェック)の実施を事業者に義務付ける。ただし、従業員50人未満の事業場については当分の間、努力義務とする
② ストレスチェックを実施した場合には、事業者は、検査結果を通知された労働者の希望に応じて医師による面接指導を実施し、その結果、医師の意見を聴いた上で、必要な場合には、作業の転換、労働時間の短縮その他の適切な就業上の措置を講じなければならない
――となっている。

 運用方法などの詳細については未確定、また、広く周知されていない面も多く、派遣事業者や製造請負事業者にも注意が必要な改正だ。来年4月の施行となる。

有期特別 法案は継続審議、派遣法改正案は実質的な〝継続審議“

【有期雇用の特別措置法案】
 6月5日に衆院を通過させたものの、参院では時間切れで審議入りに届かず、継続審議となった。昨年の臨時国会で成立した国家戦略特別区域法の規定などを踏まえ、有期の業務に就く高度専門的知識を有する有期雇用労働者について、労働契約法に基づく無期転換申し込み権発生までの期間に関する特例を設ける法案。

 具体的には、労働契約法の「無期転換ルール(5年ルール)」が適用される有期労働者のうち、(1)一定の期間内に完了する業務に従事する高収入かつ高度な専門的知識、技術または経験を有する人(上限10年)、(2)定年後に同一の事業主、この事業主と一体となって高齢者の雇用の機会を確保する事業主に引き続いて雇用される高齢者――に限って例外とするもの。

 「無期転換ルール」は昨年4月に施行された改正労働契約法の規定で、同一職場で5年以上働いている有期契約社員(パート、契約などの非正規社員)が無期契約への転換を申し出れば、企業側は拒否できない。しかし、同法案によって政府は、「高い能力の活用と維持向上を図ることができる」などとしている。

【労働者派遣法改正案】
 政府・与党は5月中旬に会期中での成立を事実上断念していたが、衆院での「審議入り」にはぎりぎりまでこだわった。最終盤では「提案理由の説明」にこぎ着けて「審議入り」の足跡を残すことに専念したものの、11本の中で唯一、「審議入り」に至らなかった。

 結果的に政府・与党は、条文誤記問題をクリアにするため、いったん「廃案」とする手法を選択した。ただし、今回の対応が法案そのものを完全に引っ込める一般的な「廃案」とは異なり、問題となっていた条文の誤記部分を修正し、秋の臨時国会に改めて提出する。10月上旬召集予定の臨時国会の前半で審議入りする方針だ。

 なお、最終的に「廃案」という対応を余儀なくされた条文の誤記は、特定派遣事業の廃止に伴う経過的罰則規定の部分で、「処分に違反した者は、一年以下の懲役」とするところを「一年以上」と記載してしまったミス。

 法案文の中で、1カ所だけ「以上」を「以下」に修正するだけで、政府は当初、「正誤表」を付して審議入りすることを模索していた。しかし、盤石な政権運営を続ける安倍内閣を攻撃、対抗する材料に乏しい野党は、この問題に焦点を当てて「法案の出し直し」を強く迫ったという側面もある。

 秋に出し直す予定の派遣法改正案は、新たな期間制限、特定派遣事業の廃止に伴う全事業者の「許可制」移行、さらに、派遣元に対する派遣労働者への雇用安定に向けた対応、キャリアアップ措置の義務化など、規制のかけ方を抜本的に見直す内容。これまで改正のたびに使われてきた「規制の緩和か強化か」といった単純な色分けを超えたものとなっており、秋の臨時国会の展開が注視される。

 

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