スペシャルコンテンツ記事一覧へ

2015年5月12日

<緊急寄稿>大阪大学大学院法学研究科教授 小嶌 典明さん

派遣法の「労働契約申込みみなし制度」(2)

なぜ労働契約の「申込みみなし」なのか

is1505.jpg 契約は、申込みの意思表示と承諾の意思表示が合致することによって、成立する。労働契約も、その例外ではない。だとすれば、なぜ「承諾みなし」ではなく、「申込みみなし」なのか。実務の現場からは、そんな素朴な質問を受けることもある。以下にみるように、労働契約法では、「承諾みなし」というスタイルがとられているからである。

(有期労働契約の期間の定めのない労働契約への転換)
第18条 同一の使用者との間で締結された2以上の有期労働契約(契約期間の始期の到来前のものを除く。以下この条において同じ。)の契約期間を通算した期間(略)が5年を超える労働者が、当該使用者に対し、現に締結している有期労働契約の契約期間が満了する日までの間に、当該満了する日の翌日から労務が提供される期間の定めのない労働契約の締結の申込みをしたときは、使用者は当該申込みを承諾したものとみなすこの場合において、当該申込みに係る期間の定めのない労働契約の内容である労働条件は、現に締結している有期労働契約の内容である労働条件(契約期間を除く。)と同一の労働条件(当該労働条件(契約期間を除く。)について別段の定めがある部分を除く。)とする。

2 略

(有期労働契約の更新等)
第19条 有期労働契約であって次の各号のいずれかに該当するものの契約期間が満了する日までの間に労働者が当該有期労働契約の更新の申込みをした場合又は当該契約期間の満了後遅滞なく有期労働契約の締結の申込みをした場合であって、使用者が当該申込みを拒絶することが、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないときは、使用者は、従前の有期労働契約の内容である労働条件と同一の労働条件で当該申込みを承諾したものとみなす

一 当該有期労働契約が過去に反復して更新されたことがあるものであって、その契約期間の満了時に当該有期労働契約を更新しないことにより当該有期労働契約を終了させることが、期間の定めのない労働契約を締結している労働者に解雇の意思表示をすることにより当該期間の定めのない労働契約を終了させることと社会通念上同視できると認められること。
二 当該労働者において当該有期労働契約の契約期間の満了時に当該有期労働契約が更新されるものと期待することについて合理的な理由があるものであると認められること。

 これに対して、派遣法では以下にみるように、派遣先が派遣労働者に対し、いきなり労働契約の「申込みをしたものとみなす」スタイルがとられている(なお、引用条文は、12年改正当時のもの)。

第40条の6 労働者派遣の役務の提供を受ける者(略)が次の各号のいずれかに該当する行為を行った場合には、その時点において、当該労働者派遣の役務の提供を受ける者から当該労働者派遣に係る派遣労働者に対し、その時点における当該派遣労働者に係る労働条件と同一の労働条件を内容とする労働契約の申込みをしたものとみなす。ただし、労働者派遣の役務の提供を受ける者が、その行った行為が次の各号のいずれかの行為に該当することを知らず、かつ、知らなかったことにつき過失がなかったときは、この限りでない。

一 第4条第3項の規定に違反して派遣労働者を同条第1項各号のいずれかに該当する業務に従事させること。
二 第24条の2の規定に違反して労働者派遣の役務の提供を受けること。
三 第40条の2第1項の規定に違反して労働者派遣の役務の提供を受けること。
四 この法律又は次節の規定により適用される法律の規定の適用を免れる目的で、請負その他労働者派遣以外の名目で契約を締結し、第26条第1項各号に掲げる事項を定めずに労働者派遣の役務の提供を受けること。

2 前項の規定により労働契約の申込みをしたものとみなされた労働者派遣の役務の提供を受ける者は、当該労働契約の申込みに係る同項に規定する行為が終了した日から1年を経過する日までの間は、当該申込みを撤回することができない。

3 第1項の規定により労働契約の申込みをしたものとみなされた労働者派遣の役務の提供を受ける者が、当該申込みに対して前項に規定する期間内に承諾する旨又は承諾しない旨の意思表示を受けなかったときは、当該申込みは、その効力を失う。

4 第1項の規定により申し込まれたものとみなされた労働契約に係る派遣労働者に係る労働者派遣をする事業主は、当該労働者派遣の役務の提供を受ける者から求めがあった場合においては、当該労働者派遣の役務の提供を受ける者に対し、速やかに、同項の規定により労働契約の申込みをしたものとみなされた時点における当該派遣労働者に係る労働条件の内容を通知しなければならない。

 労働契約法18条に定める有期労働契約の無期転換や、同法19条に規定する契約の更新については、その申込みをするかどうかの判断を労働者に委ねても問題はないが、派遣法40条の6は、派遣先の違法行為に対する制裁規定として設けられた規定であり、契約締結の申込みをするか否かを派遣労働者の判断に委ねるわけにはいかない。

 思うに、双方のみなし規定のスタイルが分かれた理由は、こんなところにある。ただ、一口に違法行為とはいっても、明々白々な違法行為ばかりではない。そこに、現場が憂慮する「申込みみなし」規定の最大の問題があった。
 

【関連記事】
労働契約申し込みみなし制度、厚労省の「行政解釈」
現行派遣法の「10月1日施行分」について示した通達案(4月27日)

派遣法「みなし制度」の通達内容で労政審部会
厚労省に指摘と質問が集中(4月24日)

 

小嶌典明氏(こじま・のりあき)1952年大阪市生まれ。神戸大学法学部卒業。大阪大学大学院法学研究科教授。労働法専攻。小渕内閣から第一次安倍内閣まで、規制改革委員会の参与等として雇用労働法制の改革に従事するかたわら、法人化の前後を通じて計8年間、国立大学における人事労務の現場で実務に携わる。最近の主な著作に『職場の法律は小説より奇なり』(講談社)のほか、『労働市場改革のミッション』(東洋経済新報社)、『国立大学法人と労働法』(ジアース教育新社)、『労働法の「常識」は現場の「非常識」――程良い規制を求めて』(中央経済社)等がある。『文部科学教育通信』に「続 国立大学法人と労働法」を、『週刊労働新聞』に「提言 これからの雇用・労働法制」をそれぞれ連載中。

PAGETOP