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2016年11月 7日

サポートセンター「2016年雇用問題フォーラム」の記録(4)・終

濱口、水町、佐藤の講師3氏が質疑応答、人材業界へ提言も

is161107_1.jpg 「雇用問題フォーラム」の締めくくりは、「これからの雇用社会と人材サービスの役割」をテーマに登壇した濱口、水町、佐藤の識者3氏がそろい、それぞれの講演後に参加者から集めた質問やその場からの直接質問に回答、または自身の見解を述べた。また、進行を務めた主催者であるNPO法人「人材派遣・請負会社のためのサポートセンター」の高見修理事長が、締めくくりとして3氏に人材サービス事業者へ向けた提言を求めた。(報道局)

3氏への質問と回答の要旨

≪濱口氏≫ 問:「人材サービス業の新たな役割」の中で、「日本に根づかなかったジョブ型基幹的労働市場を構築できるのは誰か?」(連載2を参照)などを挙げているが、現在の派遣事業とは役割が大きく違うのではないか。あるいは、担うようになるべきだ、ということなのか。

回答:欧米であれば産業別組合という企業を超えた労働市場秩序の形成主体があるが、日本では完全にそうした格好とは言えず、薄れてきている。そうした中で、今後、人材サービス事業は企業を超えた労働秩序の形成機能という面からも見ていく必要があるのではないか。

 例えば、どうしても派遣先での労働者との均衡・均等ということばかりが議論されてしまうが、ある会社の売る商品は買い手によっていろいろ値段が違ってくる、という現実がある中で、こういったことを含めて、人材サービス業が労働市場の秩序形成役としてどんな役割を果たしていけるのか。予断なく、広く考えていければという思いを込めている。「あるべき」という偉そうな立場ではなく、そうした観点もあることを知って頂ければありがたい。

≪水町氏≫ 問:同一労働同一賃金について、ジョブ型の賃金体系を目指すのか。職務給が導入されると、企業内での人事の形態などを含む弊害も起こるのでないか。

回答:現在、同一労働同一賃金と言われているが、法制度化する時には「合理的理由のない待遇格差の禁止」が前面に出た内容となり、「同一労働同一賃金や職務給にしなさい」といった文言では求めないだろう。

 逆に言うと、合理的でない格差の禁止という時に、必ずしも職務給ではなく、能力給でも勤続給でも構わないが、その中で「合理的に説明できるような賃金制度にしてください」となる。一方で、業務や職務は長続きしない。欧州でも学校で勉強したことを職務とし、狭い目での職務給賃金を支払うことをしていたら、変化に対応できないうえ、すぐ硬直化・陳腐化して解雇されるか、失業率が高まるか、会社がつぶれるということになる。賃金は企業の労使で協議してもらうのが基本。プロセスを重視して、合理性の担保を法律として求めるということになるだろう。

≪佐藤氏≫ 問:講演の中で、派遣元で無期雇用された場合に派遣先が3年を超えて受け入れられることを認めてしまった点を指摘(連載3を参照)していたが、もう少し詳しくその見解について聞きたい。

回答:派遣という働き方、あるいは派遣という人材活用をどう考えるかだ。仕事を選んで、派遣先や派遣先の業種が変わっても仕事を続けられる、というように考える。一方で、派遣先は必要な時に必要なスキルを持っている人に来てもらい、仕事がなくなったら戻っていただく。それが、派遣という人材活用だ。つまり、企業と産業を超えて特定の仕事をやれるスキルを持っているのが派遣という働き方で、派遣先企業にとってもお願いした時に来てもらえる。その視点に立つと、派遣元の無期であれば企業が同じ仕事で長く活用できるというのはおかしいのではないか、というのが私の見解。踏み込むと、派遣先が同じ人を長く活用すると、特定の会社でないと仕事ができない人をつくってしまう可能性がある。

 これは自己矛盾であり、派遣の活用の仕方として常にどこの派遣先に行っても戦力となるスキルを持った人を迎えられるというのが本筋ではないか。どれが正しいとか間違いとかの観点ではなく、原点に戻るが「派遣という働き方、人材活用の仕方をどう定義するか」にある。

濱口、水町、佐藤の講師3氏からの提言

is161107_2.jpg 今年の勉強会の年間を通して講師兼コーディネーター役を務めた濱口氏は、「人材サービス業は、ここ10数年間、どこか悪もの扱いされて来たような面もあるが、業務に矜持を持って取り組んでもらいたい」とメッセージを送った。また、水町氏は派遣元の無期雇用派遣について「同一労働同一賃金の考え方が実行性あるものになれば、企業は20年、30年と同じ人を同じ仕事で迎えることの支出負担が大きくなり、過渡期はあるかも知れないが、生涯派遣という懸念はなくなると思う」と述べた。

 「2016年 雇用問題フォーラム」の結びに、佐藤氏は「働く人が望むならば、派遣元で無期雇用の生涯派遣を完全否定しない。要は、キャリアアップ、キャリアチェンジを念頭に特定の派遣先に長くいてはいけないだけのこと」と念押し。また、8年にわたる「派遣・請負問題勉強会」を総括し、「労働組合が企業の人たちと一緒に考える。それに私たち研究者も一緒に議論できたことは有意義だった。この蓄積が、また何らかの形で継続されることを願っている」と、評価と期待を込めた。

 

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