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2018年3月19日

序盤で崩れた政府の国会運営、現状整理と今後の展開

「働き方改革国会」を掲げるも険しい道のり

 1月22日に召集された第196通常国会。昨秋の臨時国会への法案提出と成立を念頭に官邸が“突貫作業”で準備を進めてきた「働き方改革関連法案」(8本セット)は、安倍晋三首相の「国難突破」を大義とした衆院解散で先送りされた。そして、仕切り直す格好で再び臨んだ今国会だが、厚生労働省の労働時間に関する不適切な調査データ処理や、学校法人・森友学園(大阪市)への国有地売却に絡む一連の問題などで、政権の求心力は急落。防戦一方の政権は、攻勢を強める野党に加え、5年にわたる官邸主導の政策と運営に不満をため込んできた与党・自民、公明にも最大限の配慮を要しなければ立ち行かない状態にある。

 厚生労働省関係を中心に、今国会の召集時に政府が目指した法案の現状と、6月20日の会期末を視野に入れた今後の着眼点を探る。(報道局)

厚労関係省の予算外の提出予定法案は6本、既に1本は断念

sc180319_1.jpg 政府が国会召集時点(1月22日)で提出を予定していた法案は全省庁合わせて64本、条約10本。例年に比べると、絞り込んだ本数と言える。厚労省関係は当初、予算法案2本と予算外法案6本の計8本を予定していた。予算は①駐留軍関係離職者等臨時法・漁業離職者臨時措置法改正案(2月6日提出)、②生活困窮者自立支援法改正案(2月9日提出)――となっている。

 予算外は③いわゆる「働き方改革関連法案」(内容調整中)、④受動喫煙対策の健康増進法改正案(3月9日提出)、⑤水道法改正案(3月9日提出)、⑥医療法・医師法改正案(3月13日提出)、⑦食品衛生法改正案(3月13日提出)、⑧精神保健福祉法改正案(提出断念)――の6法案だ。

 早々に提出断念に至った⑧精神保健福祉法改正案は、昨年の通常国会に提出され、参院先議で審議入りしていたが、昨秋の衆院解散で廃案。政権交代がない場合は再提出が通常の流れだが、与野党対決法案のひとつであり、3月に入って看板政策の「働き方改革関連法案」を優先させる方針に舵を切った。従って、予算外は5本となっている。

与党の法案審査が大詰めを迎える「働き方改革関連法案」

 上記のように法案を整理してみると、実質的に国会提出に至っていないのは「働き方改革関連法案」のみとなる。自民党内で「安倍一強」を誇っていた政権は、党厚生労働部会などによる法案審査と公明党の法案審査を粛々と整えて2月27日に閣議決定・法案提出に持ち込む段取りだった。しかし、複数回にわたる施行期日先送りの練り直しや、不適切なデータ問題に端を発した「裁量労働制の対象業務拡大」の全面削除、森友問題を巡る財務省の決裁文書改ざんなどで与党内の風向きが変わった。

 自民の関係する部会などは3月前半だけで「合同会議」を4度開催。厚労省からの法案概要に関する聞き取りを踏まえ、中小企業への支援策を中心に指摘・注文を出し、厚労省が要望を反映させた修正案、再修正案を提示してくるという作業を積み重ねている。同部会の中堅議員は「(党は)政府の追認機関ではない。事業を営む現場の経営者と働く人たちの不安や懸念といった本当の声を反映させていくのが与党の仕事だ」と語り、“政高党低”の流れに歯止めをかけたい意識も垣間見える。

 こうした中で、「働き方改革関連法案」は、(1)「残業時間の罰則付き上限規制など長時間労働の是正(労働基準法や労働安全衛生法などの改正)」、(2)「同一労働同一賃金を目指す雇用形態にかかわらない公正な待遇の確保(パートタイム労働法や労働契約法、労働者派遣法の改正)」、(3)「高度プロフェッショナル制度の創設(労働基準法などの改正)」――の大きく3つに分けられ、8本の改正案が束ねられている。

 それぞれの改正案が“重量級”であり、党の合同会議では「中小企業への影響についてより詳細に把握すべき」、「同一労働同一賃金という言葉が誤解を招く」、「周知期間を十分に設けなければ、待遇差を巡る企業相手の訴訟が増えるだけ」、「労働時間の把握が肝心」――など、法案づくりのスタート地点を思わせるようなさまざまな意見も挙がっている。

 それでも、政府としてはできるだけ早く与党の法案審査の了承を得て、閣議決定にこぎ着けたい考え。3月16日には、公明党からの要望を盛り込む形で、「企業側が働く人の労働時間を把握するよう義務付ける規定」を新たに追加する方針を固めた。ただ、与党修正で補強して3月末までに法案を提出できたとしても、「高度プロフェッショナル制度」の創設が残っている限り、与野党対決法案の構図は変わらない。提出されれば重要広範議案に指定され、衆参の本会議と厚生労働委員会で手順を踏んだ議論が展開される。現時点で政府は、同法案だけを集中審議する特別委員会設置に慎重だが、国会全体に漂う政府劣勢の「場面転換」の手段に用いる可能性もある。

 会期末は6月20日。4月から審議入りしても、下旬から5月初旬には春の大型連休が挟まる。衆院厚労委の定例日は毎週水曜と金曜、参院厚労委は同火曜と木曜だけであり、“束ねすぎた”感のある法案審議をどのように切り盛りしていくかがカギとなる。「働き方改革国会」を掲げた安倍政権だけに大幅な会期延長も方策のひとつだが、森友問題を巡る疑念が拡大している中で、政権内に「国会を早く閉じたい」という意思が働くことも否定できない。国会終盤まで、政局と連動した法案の動向が注目される。

 

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