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2021年6月28日

厚労省の裁量労働制調査

長時間労働だが、満足度高い

 裁量労働制は良い働き方か、悪い働き方か――。厚生労働省が25日発表した「裁量労働制実態調査」によると、同制度の適用下で働く労働者と適用されない労働者を比べた場合、適用者の方が労働時間が長いという結果が出た。ただ、適用労働者の満足度は高く、「長時間労働を招く悪い制度」と断定するのは早計のようだ。(報道局)

 同調査は2019年10月末の状況について同年11~12月に実施。裁量労働制の適用企業と非適用企業を各約7000カ所、適用労働者約4万7390人、非適用労働者4万714人から有効回答を得た大規模なもの。

 裁量労働制は、事前に定めた「みなし労働時間」に対して給与が支払われ、仕事の時間配分や進め方などは労働者が決める制度。ただし、労働時間だけで成果を測れない職種に限定され、現在は弁護士などの「専門業務型」と企画・調査などを担う「企画業務型」の2種類がある。

 ただ、実際の適用者は全労働者の25%程度で、しかも専門業務型が8割以上を占めている。今回の調査でも、具体的な職種は情報処理システムの分析・設計、新商品・新技術の研究開発、大学の研究職、デザイナーなどが多数を占めた。

 企業への調査では、みなし労働時間(加重平均)は8時間14分で、実際の労働時間は8時間44分。裁量労働への「特別手当」は過半数の企業が支払っており、1カ月平均で専門型は約7万3500円、企画型は8万5400円。最も多かったのはどちらも「5万~6万円」の16%弱だった。これらは事実上の「残業代」となっている。導入理由では、両タイプとも「柔軟な働き方を後押しするため」「能力発揮を促すため」「効率的に仕事を進めるように意識改革を図るため」というものが多かった。

sc210628.png 一方、労働者への調査によると、1日平均労働時間では、裁量労働制の適用労働者が9時間0分だったのに対して、非適用労働者は8時間39分で、適用者の方が21分長かった。また、1週間の平均労働日数も各5.03日と4.97日で、裁量制労働者の方が労働時間も労働日数も多かった。

 自分の1日あたりのみなし労働時間については6割が認知していたが、残る4割近くの労働者は知らなかった。知っている人に聞いたところ、平均7時間38分となった。

 健康状態については「良い」が32%、「まあ良い」が28%、「普通」が29%となり、9割近くの人が健康に自信を持っていた。ただ、仕事のある日の睡眠時間は約6時間で、健康面に関しては「時間に追われている感覚がある」「ぐったり疲れて何もやる気がしない」「いつまで続けられるか不安なことがある」などの声も多かった。

 それでも、適用に対する満足度では「満足」が41.8%、「やや満足」が38.6%で合わせると8割を超え、「不満」「やや不満」の2割弱を大きく上回った。その理由に「柔軟に働くことでワークライフバランスが確保できる」「メリハリのある仕事ができる」「労働時間を減らせる」などを挙げる人が多かった。

 この制度についても「現行のままでいい」という意見が34%、「見直すべきだ」が28%、「特に意見はない」が28%で、それほど問題を感じていない人の多いことがわかった。

 裁量労働制については18年当時、働き方改革の一環として労政審のテーマとなり、対象職種の拡大を主張する経営側と労働強化を警戒する労働者側が対立。政府は企画型職種を拡大する改正法案を国会に提出したものの、「裁量制の方が通常の働き方より労働時間が短い」という厚労省の調査データに重大な不備が見つかったため、改革法案から裁量労働制の部分が削除され、議論は仕切り直しとなった経緯がある。

労働時間の長短だけの議論は時代遅れ

 今回の調査によって、「裁量労働制の方が労働時間は長い」ことが改めて明確になった。厚労省はこの調査を基にして有識者会議を開き、制度の見直しを再開する予定だ。ただ、労働時間が中心の議論になれば、当時と同じような展開になることは必至で、労使の意見が平行線をたどることは目に見えている。

 むしろ、裁量労働制で働く人たちが一般より長時間労働をしているにもかかわらず、なぜ満足度が高いのか、この人たちの労働生産性は高いのか低いのか、といった観点からの議論も必要になりそうだ。長時間労働自体は労基法の改革で一定の歯止めが掛かったものの、...


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