物流業界の「2024年問題」が目前に迫っている。19年の労働基準法改正により、労働者の労働時間に対する規制が強まったが、運送業界、建設業界、医師らは業務の特殊性から5年間の猶予を与えられた。5年の準備期間がありながら、ここに来てなぜ「2024年問題」がクローズアップされるのか。そこには業界の根深い構造問題が横たわっていた。(報道局長兼労政ジャーナリスト・大野博司)
労基法の改正により、残業などの時間外労働は「月45時間、年間360時間」が原則となり、特別な事情があれば「年720時間」まで可能に。大企業は19年度、中小企業は20年度から適用された。しかし、運送業界などは業務の特殊性から急な対応が困難だったことから、5年間の猶予期間が設けられた。
物流業界に迫る「2024年問題」
運送業界の場合、新たな規制はトラック運転手の時間外労働の上限を、他業界より240時間長い「年間960時間」に設定。それ以外の細則は改正「改善基準告示」により、拘束時間は1カ月あたり284時間以内、1日あたり13時間以内、1日の休息時間は9時間を下回らないなど、細かく決まっている。
国土交通省などが22年9月に発表した調査によると、物流業界の従業員数は約226万人で、そのうちトラック運送業は194万人、それもほとんどが中小企業だ。運送物は日用品がダントツに多く、金属製品、食料工業品なども運んでいる。物流全体の4割程度を占めており、国民生活にとっては必須の産業になっている。
それにもかかわらず、ドライバーの労働環境はかなり厳しい。厚生労働省の資料によると、大型トラックの運転手の平均年齢は49.9歳、勤続年数は12.1年、実働時間は212時間、所定内給与は28万円。中小零細企業が多い中小トラック運転手になると各47.4歳、10.9年、207時間、26万円。全産業平均の各43.4歳、12.3年、175時間、30万円に比べると、年齢が高い割に労働時間は長く、給与は低い(21年賃金構造基本統計より)。
また、厚労省の「労災補償状況」によると、「道路貨物運送業」の22年の脳・心臓疾患の労災請求件数は133件、支給決定件数は50件で、全産業のトップ。長時間労働の結果、常に交通事故などのリスクを抱えている業界事情が透けて見える。こうした事情もあり、全日本トラック協会傘下の就業者約199万人のうち、ドライバーは約84万人(いずれも21年)いるものの、19年の87万人から年々減り続けている。
これに時間外労働の上限規制が加わると、運送会社はドライバーの数を増やす、運送量を減らすなどの対応を取らざるをえないが、この業界を取り巻くビジネス環境の改善も必要だ。というのも、運送を委託する荷主側との力関係が極めて弱いうえ、消費者サービスの過当競争が鬼門になっているためだ。
このため同協会では荷待ち時間・待機時間の削減、手荷役作業の削減、リードタイムの延長などの対策について、荷主側の理解と協力を進めており、荷主側には「標準的な運賃の収受」「運送以外に発生する料金の収受」、消費者には「再配達を減らす配慮」「まとめ買いによる運送回数の削減」などの協力を呼び掛けている。
とりわけ、荷主側との交渉には力を入れているものの、昨年実施したアンケートでは3割の事業者が「他社に仕事を取られてしまう」「下請けなので交渉してもムダ」といった理由で交渉していないという結果が出た。過当競争が長年続いたため、荷主と運送業界の力関係に大きな開きのあることが改めて鮮明になった。
消費者側の"協力"もカギになる
しかし、このままドライバー不足などが緩和されないと、全体の輸送能力は24年に14%、30年には34%不足するとの予測もあり、消費者側が当たり前のように享受してきた「即日配達」「再配達」といったサービスも削減されるのは必至。スーパーなどでの...
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