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2025年11月10日

スポットワークを巡る隠れた留意点、「直前キャンセル」と「ドタキャン」

雇用主・ワーカー・事業者の「利便性」と「リスク」

sc251109.jpg 継続した雇用関係を持たず、短時間・単発の手軽さが特徴のスポットワーク。利用企業(雇用主)とワーカーの双方が得られる「利便性」と「融通性」から広がりをみせるなか、労働契約の成立時期や契約成立後の解約(キャンセル)などに関する労働関係法令の周知・徹底が活発化している。厚生労働省は7月、利用企業向けに労務管理の留意点、ワーカー向けにトラブル回避のための注意点を整理したリーフレットを公表。双方をつなぐ雇用仲介アプリの事業者も含め、それぞれが認識をあらたにして対応を進めている。一方で、新形態サービスであるスポットワークと従来から存在する日々紹介のマッチング工程の違いや、契約締結後の利用企業による「直前キャンセル」問題とワーカーの「ドタキャン」が招く債務不履行について利用者の理解不足が散見される。スポットワークを巡る留意事項と「盲点」を整理する。(労政ジャーナリスト・大野博司)

 厚労省による「スポットワーク」の定義は、短時間・単発の就労を内容とする雇用契約のもとで働くことであって、スポットワークの雇用仲介を展開する事業者提供のアプリを利用してマッチングや賃金の立替払いを行うもの――としている。公表したリーフレットでは、アプリを用いて利用企業が掲載した求人にワーカーが応募し、「面接を経ることなく、先着順で就労が決定する」とスポットワークの特性を明記。そのうえで、労働基準法などの順守が生じる「労働契約の成立時期」について、労使双方に強く確認を促している。

スポットワークと日々紹介の違い、「選考」プロセスの有無

 採用とは本来、一定のコストとプロセスをもって適任者を「選考」するものだが、スポットワークは「利便性」と「融通性」といった特性からこの工程を「ショートカット」しているサービスと言える。厚労省も「選考」という段取りと確認が簡略化されている点に着目しており、労働契約成立後の解約(キャンセル)の際は、その理由が合理的であることや簡略化による曖昧さからワーカーのみが不利な内容にならないよう留意している。スポットワークの場合、解約事由に該当しない場合は原則として解約(キャンセル)できず、契約した時間は働いてもらうか、働いてもらわない場合は休業手当を支払うことを基本線としている。

 一方、フルキャストなどに代表される日々紹介は「選考」が売りのひとつであり、コストをかけて「選考」という工程を挟んでいる。テクノロジーの進化で外形的に似ているように映るが、スポットワークとはマッチングに至るスキームが異なる。「選考」以外にも、紹介先の職場をすべて事前に現地確認しているほか、もし利用企業がキャンセルをかけてきた場合は希望に類似する別の働き先を紹介したり、就業先でのトラブル処理にも対応している。この「選考」プロセスの有無という違いは、報道媒体や指導監督をする行政機関でも見紛っているケースがある。

「直前キャンセル」の対応整備とワーカーの「ドタキャン」

 短時間・単発の就労において、利用企業による「直前キャンセル」問題は兼ねてから指摘されていた。例えば、必要以上の募集をかけて寸前で適正人数に絞るといった場合だが、これは「労働契約の成立時期」を明確にすることで解消・回避されることが多い。契約成立は労基法を守る義務が発生する起点だけに、「直前キャンセル」への対応をはじめ、通勤途中の事故などにおいても利用企業の「責務の曖昧さ」が払拭される。

 厚労省が公表したリーフレットは、何か新しい基準やルールを示したものではない。現行法令の順守事項をスポットワークに照らして整理したものだ。特に「労働契約の成立時期」の明確化で、あらゆるトラブル回避に向けて「元栓」を締めた格好だ。

 リーフレットには「一旦確定した労働日や労働時間等の変更は、労働条件の変更に該当し、事業主とスポットワーカー双方の合意が必要」と明記。厚労省は、雇用仲介アプリ事業者の業界団体に対して、利用企業の法令順守と労働者保護を促進するための適切な支援と周知・啓発の協力を依頼。タイミーやシェアフルなどが加盟する一般社団法人スポットワーク協会は今年9月以降、ワーカーが求人への応募を完了した時点で「解約権留保付労働契約」が成立するとの考え方に立ち、利用企業からのキャンセルによって、ワーカーの就労準備が無駄になったり、その日に別の就労機会を見つける時間的余裕がなくなることを防ぐ観点から、就労開始時刻の「24時間前」経過後は原則として利用企業からのキャンセルはできない、とする協会の統一見解を出した。スポットワークのスキームの特性、特徴を鑑みた対応であり、利用企業とアプリ事業者に一連の動きと認識が早急に広がることが求められている。

 他方、ワーカー側の「ドタキャン」も利用企業の頭を悩ませてきた問題のひとつだ。派遣活用の場合は、「役務の提供」を約束した利用企業と派遣元との契約だけに、派遣社員が「ドタキャン」した際には派遣元の内勤社員が急遽代わりに従事して契約を履行するというケースを聞く。利用企業は事業や商売の運営と売上を計算して準備しており、想定していた陣容に狂いが生じると売上に直結する。

 この点においてスポットワーク協会では、ワーカー側からの解約は原則として理由を問わず可能であるとしている。これは9月以降の「ワーカーが求人への応募を完了した時点で『解約権留保付労働契約』が成立する」との考え方に基づいて成り立っている。8月末までは、タイミーやシェアフルなどのスポットワーク事業者において、ワーカーが求人への申し込みを完了した時点で「解約権留保付労働契約」が成立するとの前提に立った運用がなされていなかった。こうした状況下で、申込完了後に(解約権が留保されていない)労働契約が成立するとの整理に立つと、これまでのワーカー側の「ドタキャン」に対して雇用主は、債務不履行としてワーカーに損害賠償を請求できることになる。手軽さが魅力の短時間・単発の仕事であっても、「直前キャンセル」や「ドタキャン」が極力発生しないよう、利用企業とワーカー双方の労基法にのっとった意識向上が必要だ。

職安法の「お祝い金禁止」規定に対する認識不足

 このほか、雇用仲介事業者が求職者に金品を提供して転職を促す行為に歯止めをかける、いわゆる「お祝い金禁止規定」が職業安定法の省令改正で今年4月から求人メディアにも拡大している。スポットワーク事業者も対象であり、職業紹介または募集情報等提供事業者(求人メディア)のいずれの形態であれ、禁止規定の対象となった。厚労省は「人と仕事を結びつける雇用仲介を営む以上、共通して順守すべき基本ルール」として、金品の提供をうたっての誘導・集客は認めておらず、「サービスの質」による競争を促している。

 ところが、行政指導の対象となる「お祝い金禁止規定」の意図が業界内に浸透しきれていない様子で、人材紹介会社や求人企業・事業者などから行政機関に苦情が寄せられている。雇用仲介サービスの一角を成すスポットワーク事業者の改善は、まだ道半ばにあると言える。

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