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2014年9月22日

篠原欣子テンプHD会長に聞く

「働く女性支援は生涯続けます」

 テンプホールディングス(HD)の篠原欣子会長は昨年4月に社長職を水田正道氏に譲り、今年6月には代表権も返上した。一方で、2月に「篠原欣子記念財団」(注)を設立し、社会福祉系の仕事を志す学生への奨学金制度を開始するなど、その活動ぶりにはいささかの衰えも感じられない。(聞き手・本間俊典=経済ジャーナリスト、撮影=山内信也)

―― テンプHDの仕事を水田社長に任せ、もう“隠居”していると思っていましたが、記念財団を設立するなど、精力的な活動ぶりに驚きました。

is140922.jpg篠原 私自身は、前も今も変わってはないと思っています。社長時代も、私が前に出てトップダウンで物事を決めてきたわけではなく、いつも周囲の人たちと相談しながら進めてきました。私はテンプスタッフ創業期からの「働く女性を支援する」という目標に向かって事業を進めてきただけです。

 もちろん、創業から41年が経って、テンプスタッフはテンプグループとして事業規模を拡大し、総合人材サービス企業に成長しました。東証1部にも上場を果たしました。そんな組織に対する私の気持ちは、母親が子供を思うようなものです。私に子供がいないからかもしれません。

 個人のお客様や社員には「テンプグループで働いて良かった」と思ってもらいたい、クライアント企業には「テンプグループを活用して良かった」と思ってもらいたい。とにかく「良い」会社にしなければいけない。言い換えると、すべてを包み込む「母性愛」の会社という感じでしょうか。それは一貫して変わっていません。

記念財団設立、奨学金給付活動も

―― 2001年に保育・託児サービス子会社のウィッシュ(現テンプスタッフ・ウィッシュ)を設立したり、07年には保育士や医療事務従事者らを養成する「篠原学園専門学校」(現篠原保育医療情報専門学校)を個人的に設立するなど、福祉系の事業にも力を入れてきました。今回の記念財団設立も、福祉系職種での就業を考えている人のキャリア支援を目的としたものですね。

is140922_2.jpg篠原 社会福祉系の保育士、社会福祉士、介護福祉士といった職業には国家資格が必要ですし、幼稚園教諭も免許が必要です。こうした職業を目指して勉強しているものの、経済的理由で困っている学生さんたちの資格や免許の取得を応援しようと思い、返済不要の給付型にしました。

 日本は少子高齢化が急ピッチで進んでおり、今後も保育や介護などに従事する人がさらに増えるのは確実です。女性の就労支援・機会の提供は私の仕事の原点でしたから、特に変わったことを始めたという気持ちはありません。生涯、続けようと思っています。それが社会への恩返しでもあります。

―― 政府も現在、官民挙げて「女性の活躍」を本格的に進めようとしています。時代が篠原会長の路線にようやく追い付いてきた感があります。

篠原 そうした見方もできると思いますが、私には母親が助産師をしていて、早くに病死した父親の分まで働き、私たち子供を育ててくれた原体験があります。また、オーストラリアなどで女性も男性と同じように働いている姿を見てきたこともあって、女性が働き、活躍するのはごく当たり前のことなのです。

 でも、現実には男女の役割分業がいまだ存在していて、女性の就労環境は男性と同一とは言えません。テンプの創業もそこが発端でしたが、現代でも女性の雇用はもっと増えるべきです、増やさなければなりません。そのためにやるべきことが山積みです。

 

(注)篠原欣子記念財団 篠原氏個人が資金を拠出して今年2月に設立、代表理事に。6月にはテンプHDの持ち株を寄贈、株式配当金を原資に、社会福祉系資格や幼稚園教諭免許取得を目指す大学生らを対象に、月額3万円の奨学金を支給。返済不要の給付型。9月に第1次募集を開始、第2次募集を合わせ、初年度100人程度を予定している。

 

篠原 欣子氏(しのはら・よしこ)1934年、神奈川県出身。53年高校卒業、三菱重工入社。退社後、語学習得のためスイス、英国に留学、その後オーストラリア・シドニーの市場調査会社勤務時に人材派遣を知る。帰国して73年、テンプスタッフを設立して社長に。2006年東証1部上場。08年持ち株会社テンプホールディングス社長。13年会長に就任。この間、00年から12年連続で米フォーチュン誌「世界最強の女性経営者50人」に選ばれる。

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