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2016年1月18日

ベトナムの理系新卒を日本企業へ、「日越就業能力開発プログラム」開講 ―(上)

ホーチミン工科大と人材サービス会社が連携・共同運営

 東南アジアの大学新卒者の採用に注力する日本企業の流れが加速している。これまでの「即戦力人材の中途採用」から「優秀な学生の新卒採用」へ比重が移り、とりわけ理工系の学生の取り込みに躍起だ。その動きに応えるべく、日本の人材サービス会社は現地のトップクラスの大学と連携し、在学中に学生に就職後の“障壁”となる日本語を学んでもらって育成するなど、紹介(採用)までつなぐ役割に奔走している。

is160118_1.jpg こうした人材サービス会社などの後押しに期待が高まる中、昨年8月、ベトナム国家大学ホーチミン市校工科大学(ホーチミン工科大)と大阪市に本社を置くジャパンクリエイトグループの現地法人であるタンスイベトナムが調印式=写真=を経て開講した「日越就業能力開発プログラム」に着目。開講の背景や仕組み、プログラム長を務めるダン・ダン・トゥン准教授のインタビューをはじめ、学生たちの姿などを取材した。(労政ジャーナリスト・大野博司)

活気あふれる南部、日本商工会の会員は5年で約300社増

 日本の企業がアジアの若き理工系人材に熱い視線を送る背景には、国内の少子化といわゆる「理系離れ」がある。特に、グローバルな事業を展開する大手企業は危機感を抱き、2012年前後からアジアの新卒採用が活発化。日本に留学している優秀な学生をそのまま春の一括採用で取り込む手法もとられていたが、留学生だけでは確保できない「顔ぶれと卓越した人材」をまだまだ迎え入れたいのが本音だ。

 アジアの中でも日本企業に就職を志願する学生が多い東南アジアは、日本企業側と学生側の双方の「思いと狙い」が合致。一方で、日本企業が現地の学生を新卒で採用するには、依然として「日本語と文化の共有」という壁がある。現地の大学側も学生の希望をサポートしようと民間の日本語学校や語学などを支援する日本法人などとの提携に注力してきたが、この数年、人材サービス会社の仲介や中長期を展望した「試み」が広がりつつある。

 東南アジアの中でも、親日の傾向にあるベトナムは今、理系人材の新卒採用の屈指の注目国。中でも、周辺地域からの流入によって、人口800万人を超えた成長が著しい最大都市・ホーチミン市は活気がある。雰囲気や感触だけではない。2010年8月には488社だったホーチミン日本商工会(JBAH)の会員企業が、15年11月には799社へと5年で300社以上増えている事実が勢いを物語っていると言えよう。

日本語教育だけではない「トータル支援」のプログラム

 昨年8月に締結し、翌月開講したホーチミン工科大の学生を対象にした「日越就業能力開発プログラム」とは、どのような仕組みなのだろうか。プログラム長を務めるダン・ダン・トゥン工学部准教授によると、同大は多面的な研究や交流などを使命とする「国際プログラム機関」(OISP:Office of International Study Programs)を有しており、ジャパンクリエイトグループのタンスイベトナムがパートナーシップ協定を締結。プログラムの事業主体は、ホーチミン工科大学・タンスイベトナム・ジャパンクリエイトの3者で共同運営する形をとっている。調印式にはヴー・テー・ユン副学長らが出席した。

is160118_2.jpg 同プログラムのコンセプトは、①質の高い日本語教育、②日本文化やビジネスマナーの教育、③日本企業のニーズに応える人材の教育――を実施=写真=し、その教育を受けた学生を日本企業に紹介していく。専任の日本人講師らが9月以降、教室の提供を受け、初年度のスタートを切った。

 ユン副学長は「プログラムのメリットは学生だけではない。ホーチミン工科大のブランド力が上がることと、運営の連携によってプログラムの充実が図れる。学生、大学、企業、社会の4方向に良いメリットがある」と強調。

 また、ジャパンクリエイトグループの五十嵐庸公社長は、「今回のパートナーシップ協定は、創業の事業主体である人材ビジネスに関わるノウハウをいかんなく発揮できる」との展望を示し、「学生と日本企業の架け橋になることができるよう全力を尽くしたい。そして、優秀な学生が一人でも多く、学んだことを日本企業で活かし、グローバル社会で活躍するための役割を果たす」と、グループを挙げた一貫したトータル支援と今後もプログラムのバージョンアップを進める考えだ。

 こうした日本の人材サービス会社の取り組みは、「両国にとって意義がある」として現地の在ホーチミン日本国総領事館をはじめ、日本の出先機関なども歓迎している。 (つづく)

 

≪ベトナム・ホーチミン市≫
 正式名は、ベトナム社会主義共和国で、東南アジアのインドシナ半島東部の沿岸を有する。唯一の合法政党が共産党。首都は北部に位置するハノイ、南部のホーチミン市は人口約805万人で国内最大都市。GDP成長率は9.60%(全国5.98%)、産業構造の主体は工業とサービス業。自動車保有台数は約55万台(2013年)、自動二輪は10倍にあたる約552万台(同)。
 日本との友好都市は大阪府、横浜市、兵庫県。大阪市、近畿経産局などとは交流・協定を結んでいる。市内における民間日本語学校数は30校程度で、ベトナム全体では年間に約2万6000人が日本語能力検定試験を受験。(出典:2015年12月8日・在ホーチミン日本国総領事館の訪問・取材時における資料より)


 

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