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2024年2月 8日

小岩広宣社労士の「人材サービスと労務の視点」213・能登半島地震被災に関する対応について⑤

Q 自然災害時の事業運営に関するQ&Aのうち、派遣労働者に関する項目は具体的にはどのような内容ですか。

 前回ご紹介した「自然災害時の事業運営に置いて労働基準法や労働契約法の取扱いなどに関するQ&A」では、「2 派遣労働者の雇用管理について」として、以下のQ&Aが記載されています(1月15日現在)。

Q2-1 派遣先の事業場が災害の影響で休業しましたが、派遣先事業主が直接雇 用する労働者を休業させたことについては、労働基準法第26条の「使用者の責に帰すべき事由」に当たらず、同条に基づく休業手当の支払が不要とされました。このような場合、派遣元事業主と派遣労働者との関係においても、休業手当を支払う必要がないこととなるのでしょうか。

Q2-2 派遣先の被災等により、派遣先での業務ができなくなったことや、派遣先と派遣元の労働者派遣契約が中途解除されたことにより、派遣元が派遣労働者を即時に解雇することは許されるのでしょうか。


koiwa24.png Q2-1では、派遣中の労働者については、派遣先の事業場が、天災事変等の不可抗力によって操業できないため、派遣労働者が就業できない場合であっても、「使用者の責に帰すべき事由」に該当するかどうかの判断は派遣元の使用者についてなされるため、必ずしも使用者に休業手当の支払い義務が発生しないとは限らないとしています。

 派遣元の使用者が、休業させる派遣労働者について、被災地以外の地域の事業場に派遣する可能性などを総合的に判断することになるため、実際には被災地で被災した派遣労働者を休業させる場合であっても、休業手当の支払い義務が発生することがあります。

 Q2-2では、派遣契約と労働契約は別契約であることから、派遣契約の解除によって派遣労働者を即時解雇できるものではない原則が示された上で、派遣契約が中途解除された場合でも、派遣元指針に基づいて、派遣先と連携して新たな就業機会の確保を行い、それが実行できないときは休業などを行うとされています。

 派遣元事業主が派遣労働者を休業させ、休業手当の支払いをする場合には、雇用安定助成金などを活用することを通じて、派遣労働者の雇用の維持を図るケースも多いため、210回で触れた雇用調整助成金の特例措置を有効に活用して、雇用維持に向けての取り組みを進めていきたいものです。

 これらの派遣労働者をめぐる論点については、従来からの法令や行政解釈が変更されたものではありませんが、派遣契約と労働契約とが複雑に重なり合う派遣労働者の労務管理について基本事項が分かりやすく整理されていますので、ぜひしっかりと再確認したいですね。


(小岩 広宣/社会保険労務士法人ナデック 代表社員)

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