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2022年7月 4日

男女の賃金格差、公表義務化

「格差大国」からの脱却目指す

 企業に勤める男女の賃金格差の公表が7月から義務化された。岸田政権が掲げる「新しい資本主義」の一環で、岸田首相が1月の国会答弁で企業の開示ルールの見直しを明言し、6月に開示義務を閣議決定したもの。ただ、義務化までの議論がかなり性急で、周知も十分でないうちに実施されたことから、企業側は戸惑いを隠せないようだ。(報道局)

 女性活躍推進法(女活法)に基づく省令の中で規定している「状況把握・目標設定」や「情報公表」の複数項目に、「男女の賃金の差異」を必須項目として追加した。閣議決定に基づき、労働政策審議会雇用環境・均等分科会で6月17、24日の2回の審議で了承された。

 具体的には、正社員、派遣を除く非正規社員、両方(全従業員)の3つについて、賞与を含む平均年間給与を算定し、男性社員を100とした場合の女性社員の比率を出す。対象は従業員301人以上の企業で、300人以下の中小企業はとりあえず"免除"された。上場・非上場を問わず、約1万6500社が対象になるとみられる。毎年の事業年度の終了後に公表。例えば3月期決算企業は来年3月以降、3カ月以内に公表しなければならない。また、格差の実態を正確に表すため、決算では一般的になっている連結ベースではなく、単体での開示を義務づけている。

 一方、別なアプローチからの開示義務も法制化される。金融庁の金融審議会は6月13日の作業部会報告で、「人的資本」充実の一環として、企業の有価証券報告書の「従業員の状況」の中に女性管理職比率、男女の育休取得率、男女間賃金格差を開示項目に加えることを決めた。賃金格差の公表が「企業価値=投資尺度」の判断材料にもなるという意味で、上場約4000社が対象になる。女活法では賃金差を公表していない企業にも「開示が望ましい」と踏み込んでおり、早ければ23年3月期決算企業から開示される見通しだ。

sc220704.png このように、政府が法的に男女の賃金格差是正を図る措置に踏み切ったのは、日本の格差が世界的にみて大きく、男女差別を象徴する現象となっているためだ。内閣府の男女共同参画局が3月に公表した「男女間賃金格差」によると、正社員が中心の一般労働者の所定内給与の比較では、10年以降、男女差は毎年少しずつ縮小しており、10年の69.5から20年は74.3と5ポイント近い改善傾向にはある。また平均勤続年数も10年当時の67.4からコロナ下の20年は69.4となり、コロナ以前の18年は71.1と3.7ポイントの改善がみられる=グラフ

 20年の場合、男性の平均給与は月額33万8800円に対して、女性は25万1900円。また、勤続年数の平均も男性の13.4年に対して、女性は9.3年となっている。

 しかし、OECDデータを基に厚労省が公表した先進国の男女間賃金格差(男性=100)をみると、英国の12.3(20年)、ドイツの13.9(19年)、フランスの11.8(18年)に対して、日本は22.5(20年)とかなりの開きがある。OECD加盟国の中でも、賃金の中央値比較では平均87.2に対して、日本は76.5と下から2番目。わずかな改善では他国に追い付かないほど、大きな開きができてしまっている。

 男女の賃金差を決める要因としては勤続年数、雇用形態、役職、学歴などがあるが、女性の勤続年数は男性の約7割であり、雇用形態では女性が非正規の6割ほどを占める。女性管理職は1割以下に過ぎず、いずれも男性より賃金が低くなる要因として説明できる。

格差の背景にあるメンバーシップ型雇用

 しかし、こうした男女差異の背景にあるのが、男性中心の正社員を主軸に据えた「メンバーシップ型」の雇用慣行であることは明らかだ。男性は外で働き、女性は家を守る。男性は定年退職までの長期雇用を前提に会社に通い、給料が毎年上がる代わりに、長時間労働も転勤もいとわない。戦後の高度成長期に定着した労働慣行であり、男性の労働力が豊富にある人口増加期にはそれなりに奏功した。

 一方で、女性が同じ条件で働こうとしたら、家事はできず、子供も産めず、家族の介護もできない。やむなく一度退職して復職しても、...


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