スペシャルコンテンツ記事一覧へ

2022年10月10日

ビジネス分野の人材育成、政府がようやく本腰

総合経済対策に盛り込む方針、労働市場改革も視野

 「新しい資本主義」を掲げる岸田政権が、ビジネス分野の人材育成に乗り出す。6月に閣議決定した「グランドデザイン及び実行計画」の中から、早期実施が必要な重点項目として人材育成を取り上げ、10月中に取りまとめる総合経済対策に盛り込む見通しだ。しかし、人材の"底上げ"には時間が掛かることから、効果が表れるのは数年先とみられ、腰の据わった政策の実現が求められる。(報道局)

sc221010.jpg 10月4日に開いた新しい資本主義実現会議で、政府は重点項目のトップに「人への投資と分配」を挙げ、具体的には「労働移動(転職)の円滑化」「リスキリング(学び直し)の促進」「構造的な賃金引き上げ」を例示した。「分厚い中間層」の形成には持続的な賃上げが不可欠であり、そのためには労働市場の改革が必要という基本的な認識を示したものだ。

 狙いは、成長が見込まれる産業・企業への労働者の転職機会を増やし、「失業なき労働移動の円滑化」を図ること。そのためには、他の産業・企業でも通用する高スキル人材を育てるためのリスキリング投資を支援し、労働生産性の向上につなげて賃金アップを図ることが必須だ。さらに、年功制の職能給から日本に合ったジョブ型の職務給への移行など、労働移動の円滑化に向けた指針を来年6月までに策定。硬直化している現状を揺り動かしたい考えだ。

「3年間で4000億円」から「5年間で1兆円」に大幅拡大

 賃上げについては、来年の春闘で物価上昇率をカバーする賃上げを目標に労使で議論するよう求めている。また、最低賃金の1000円以上への早期引き上げ、社会保険料の自己負担の線引きとなる「130万円の壁」を解消する保険適用の拡大などもうたった。

 リスキリングについては、現在、「3年間で4000億円」としている公的支援を「5年間で1兆円」に拡大し、大幅に不足しているデジタル人材の育成を現在の100万人目標から26年度までに300万人に拡大する。企業によるサバティカル休暇(長期勤続者に対する長期休暇)の導入促進なども盛り込む予定だ。

 総合経済対策は現下の円安・物価高への対応が焦点となり、電気料金の値上げ抑制策などに社会の目が向きがちだが、これまでもっぱら民間主導で進んでいた「人材育成」に政府が乗り出す意義は大きい。

 日本経済は長年にわたって、物価も賃金も上がらないデフレ体質から脱却できず、アベノミクスでは「官製春闘」や「働き方改革」を通じて賃金アップと労働生産性の向上を目指したものの、長期政権にもかかわらず成功しなかった。要因の一つが「人への投資」が不十分だったため、アベノミクスの3本柱だった「成長戦略」が進まなかった点にある。

 その象徴がIT・デジタル人材の慢性的な質量の不足だ。パーソル系のdodaが毎月公表している転職求人倍率をみると、「IT・通信」業界の求人倍率は8月で5.93倍と平均の2.09倍を大きく上回っており、職種別でみると「IT・通信」のエンジニアは実に9.75倍の超売り手市場となっている。この需給アンバランスが長年続き、エンジニアの絶対的な不足が解消しないまま現在に至っている。日本の場合、多くのIT人材が専門企業に集中してしまい、一般企業が採用しようとしても人材が見つからないという背景もありそうだ。

「デジタル後進国」になった日本

 その結果、スイスの国際経営開発研究所(IMD)が毎年発表している世界デジタル競争力ランキングによると、...

※こちらの記事の全文は、有料会員限定の配信とさせていただいております。有料会員への入会をご検討の方は、右上の「会員限定メールサービス(triangle)」のバナーをクリックしていただき、まずはサンプルをご請求ください。「triangle」は法人向けのサービスです。


【関連記事】
有事対応の「政策断行内閣」、第2次岸田改造内閣の布陣
厚労相は加藤氏、労働担当は羽生田副大臣と畦元政務官(8月15日)

PAGETOP