今春闘の第1陣となる大企業の回答が出そろった。連合が15日までにまとめた賃上げ額は1万6469円、賃上げ率5.28%(771労組の加重平均)となり、1991年以来33年ぶりに目標としていた「5%以上」を実現した。しかし、連合自身が言及しているように、真の課題は今後の中小企業の動向だ。さらに、それが日銀の金融政策に影響を与える可能性も大きく、今年は例年にない注目度となっている。(報道局)
連合の集計では正社員のほか、有期・短時間・契約等労働者の賃上げも時給ベースで71.10円、6.47%アップ、月給ベースで1万5422円、6.75%となり、引き上げ率では正社員を上回っている。しかし、従業員300人未満の中小企業(358労組)の正社員になると、1万1912円、4.42%で、昨年よりは賃上げ額・率とも上回ったものの、5%には届いていない。大手の回答は正社員、非正規社員ともほぼ予想されたレベルであり、第2陣以降も高率で決着するとみられる。しかし中小で今後、第1陣の平均を上回る回答が続くかどうかは予断を許さない=グラフ。
昨年の春闘は、結果的に「掛け声倒れ」だった。賃上げ率は連合の調査で3.58%、経団連の調査でも3.99%で、それ以前よりは高くなったものの4%台にも届かなかった。このため、賃上げの恩恵を受けない家庭も含めた毎月勤労統計では、実質賃金が22年4月から今年1月まで22カ月連続のマイナスが続くという異常事態が続いている。
実質賃金のマイナスは、国民生活の水準が下がっているという意味であり、多くの家庭は物価高への生活防衛に消費活動を抑制している結果、個人消費は依然として低迷したままだ。これがGDP(国内総生産)にも大きく影響しており、昨年はゼロ成長線上を上下する低位で推移した。
昨年、大手の賃上げが中小企業に十分波及しなかった大きな要因として、大手が下請け企業などからのコスト上昇分の価格転嫁を認めず、中小は賃上げの原資を得られなかった点が重視された。このため、政府は今回、日産自動車など大手の"下請けいじめ"ぶりを公表するなどしてスムーズな価格転嫁を促しているが、これがどこまで奏功するかは疑問だ。
というのも、仮に価格転嫁がスムーズに進んでも、それが今回だけでなく、毎年の賃金上昇に結びつかなければ無意味だからだ。毎年、賃金を上げながら収益を確保するには大手も中小も労働生産性を向上させなければならないが、日本企業の生産性は先進国で低位が続いており、国際競争力は回復していない。代表的な自動車産業では検査不正が常態化し、世界の潮流であるEV(電気自動車)開発にも遅れを取るなど、技術革新による目立った生産性向上は見られない。
このため、国内販売は増えておらず、円安のお陰で収益を維持しているに過ぎない。以前は大手と中小が「一体化」していたのが、長期のデフレ期間中に「分断」してしまい、トリクルダウンが止まってしまった。これが賃上げの浸透を妨げている大きな要因だ。
連合の芳野友子会長も初回の集計結果を受け、「物価高による組合員の家計への影響、人手不足による現場の負担増などを踏まえ、日本経済の成長につながる『人への投資』の重要性について、中長期的視点を持って粘り強く真摯に交渉した結果と言える」と評価しながらも、さらに「先行組合が引き出した回答内容を中小組合、さらには組合のない職場へと波及させていくことで、すべての働く者の生活向上につなげていかなければならない」と気を引き締めている。
日銀、マイナス金利修正に動くか
一方、今年の賃上げは日銀の金融政策にも大きな影響を与えるとみられる。日銀が春闘の動向に注目するのは、...
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