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2016年7月 4日

JILPTの「求人・求職情報提供業界」調査などから考察

実態把握と自主ルール徹底が課題

 労働政策研究・研修機構(JILPT)は、求人・求職情報の提供を扱う企業を対象に実施した詳細なアンケート調査「求人情報・求職情報関連事業の実態」をまとめ、5月末に発表した。人材サービス業界全体を見渡すと、IT技術の飛躍的発展に呼応して新たなビジネスモデルや仕組みが各事業で急速に進んでおり、中でも、求人・求職情報(広告)を扱う業界の進化は著しい。転職市場をはじめ、労働市場の形成に大きな役割を担っている業界であり、今回の調査を契機に業界全体のさらなる実態把握が進むことが期待される。(報道局)

 アンケートは2015年3月と補充で同年6月に実施。対象とした調査票配布数は621社で、82社が「所在不明など」で返送されてきたため、実質の対象は539社となった。このうち、123社から回答を得たが(回収率22.8%)、有効回答社数はわずか99社。また、「事業に従事する労働者数別企業割合」をみると、「1~29人」が計74.2%と4分の3を占めており、調査内容を見ていく前提として、求人・求職情報提供事業の「データ収集と実態把握」の難しさがうかがえる。

is160704.png 99社の企業属性については、多くの企業が求人情報だけでなく、求職情報、職業紹介、労働者派遣、研修・教育訓練などの事業を手掛けていた。また、求人情報以外に、人材ビジネスの一環として事業展開している企業と、広告事業の一環としている企業に大別される。利用媒体(複数回答)はフリーペーパーや新聞折り込みなどの紙媒体が63社、求人情報サイトが81社で、ビジネスの主流は紙からウェブサイトに移っている=グラフ。紙からウェブへの移行は数年前から「逆転」すると見られていたが、他の複数の調査機関のデータでも明らかなように、今回発表された同機構の調べでもそれが証明された格好だ。

「全求協に加盟していない企業の実態把握は困難」JILPT

 では、業界全体の実態はつかめたのか。そこには課題がある模様で、同機構は名寄せなどによる“探索”の結果、業界と関連企業は400社近くあると推定しているが、業界団体の公益社団法人・全国求人情報協会(全求協)に正式加盟しているのは65社に過ぎない。

 このため、調査では「加盟していない企業が適正な事業を実施しているかどうか、把握すること自体が困難」と報告しており、許認可事業の職業紹介や労働者派遣などに比べて、コンプライアンス(法令順守)面で立ち遅れている可能性がある。

 「信頼を得るための取組と苦情対応」では、回答のあった求人情報93社のうち、96.8%が「何らかの取組・対応を行っている」と回答。具体的には「労働関係法令等の違反に対する主体的チェック」(84.9%)、「記載内容の誤り・誇大表現についての求人企業による事前確認」(82.8%)などが多かった(複数回答)。「苦情があった場合の求人企業への事実確認」「求人企業に出向いて掲載内容を確認」も半数以上あった。

 また、「信頼を得るために苦慮している事項」として、約半数が「特に苦慮していることはない」と回答したが、苦慮している企業で最も多かったのが「求人企業などが掲載内容について教えてくれないことがある」だった。求人企業には、職業安定法や労働基準法で労働条件の明示義務が定められているが、「求人はしたいが労働条件の詳細は開示したくない」とする企業がいまだに存在している。

 過去1年間に求職者からの苦情が寄せられたかどうかは、52.7%が「あった」と回答。苦情の内容は「掲載された求人情報の内容が実際と異なっていた」が72.3%と最も多く、次いで「求人企業に対する不満」が66.0%あった。注意しなければならないのは、「求人情報が実際と異なっている」という求職者側の苦情は、求人情報企業だけでなく、ハローワークにも多く寄せられているという現実だ。厚生労働省が6月8日に公表した2015年度の求人企業の「虚偽求人票に関する調査」で、そうした実情が分かる。(関連記事参照)

「虚偽の広告をした求人情報提供企業」への罰則も検討へ、厚労省

 「時代に適応した見直しの視点」と「求職者保護の観点」を基軸に昨年3月から議論を重ねてきた厚生労働省の「雇用仲介事業等の在り方に関する検討会」は6月3日、全16回の会合を踏まえて報告書を取りまとめた。その中には、「虚偽の求人を出した企業」と「虚偽の広告を出した求人情報提供企業」への罰則の提言も盛り込まれた。これは、職業安定法の改正につながるため、今秋から労働政策審議会で報告書を「たたき台」とする議論が始まる見通しだが、焦点のひとつになるだろう。 

 こうした流れと同時に、昨年10月から順次施行された若者雇用促進法では、求人企業に対して「固定残業代」の中身や「職場情報」を明記することが義務化されたことから、兼ねてから「自主ルール」の活動を進めている全求協も今年12月から、「固定残業代」の内容を表示しない企業の求人広告を掲載しないことにした。(関連記事参照)

 全求協加盟企業の扱う年間広告件数は約1300万件(15年)で、非加盟企業も合わせた全体の7割程度を網羅するとみられることから、業界全体の不透明感やイメージ向上、悪質事業者の排除に向けても、こうした各種法改正を先取りした「自主ルール」の徹底によって一定の自浄効果が出て来るとみられる。

 

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